地元の見る目を変えた47人。
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2018.09.11
未来を仕掛ける日本全国の47人。
毎週、F.I.N.編集部が1都道府県ずつ巡って、未来は世の中の定番になるかもしれない“もの”や“こと”、そしてそれを仕掛ける“人”を見つけていきます。今回向かったのは、神奈川県の真鶴町。株式会社HAGI STUDIO代表の宮崎晃吉さんが教えてくれた、〈真鶴出版〉の川口瞬さん、來住友美さんをご紹介します。
この連載企画にご登場いただく47名は、F.I.N.編集部が信頼する、各地にネットワークを持つ方々にご推薦いただき、選出しています。
出版と宿泊を掛け合わせた新しい仕事を作り、
新しい時代の働き方、暮らし方を実践する人。
神奈川県の南西部に位置する真鶴町。すり鉢状に海を囲むこの土地で始まった〈真鶴出版〉は、出版業と宿泊業を両立させた「泊まれる出版社」として、多くの人を惹きつけています。オーナーを務めるのは、川口瞬さん、來住友美さんご夫妻。推薦してくださった宮崎さんは、「暮らしと仕事を一体的な生業として両立しているところ、編集者でもある川口夫妻のフィルターによって真鶴の町の潜在的な魅力を顕在化しているところに、未来の可能性を感じます」と話してくれました。今回は、川口瞬さんにお話を伺ってみます。
F.I.N.編集部
川口さん、はじめまして。
川口さん
はじめまして。
F.I.N.編集部
まずは、真鶴町はどんな土地なんですか?川口さんが感じる特徴と魅力を教えてください。
川口さん
1番の特徴は、コンパクトなところです。歩いて回れる範囲に、海と森と人の暮らしがぎゅっと凝縮されているような感じで、歩くだけでいろんな発見があります。また、町の各所で昔ながらの風景を楽しむことができます。
F.I.N.編集部
昔ながらの風景とは、具体的にはどんなものなんですか?
川口さん
井戸や木柱(木製の電柱)があったり、あとは、街中に車が通れないほど狭い”背戸道”という路地が張り巡らされていたりしてます。その道を歩いていると、道端に植栽が飾ってあったり、洗濯物が干してあったり、古くから受け継がれてきた人々の暮らしに出会えるんです。京都や金沢のような歴史的建造物があるわけではないので、絶景というほどではないんですが、初めて来た人でも、「なんか懐かしいな」とおっしゃる方も多いですね。高い建物の建設を規制する条例「美の基準(*1)」があることも、そう感じさせる理由のひとつなのかもしれませんが。
*1 美の基準 1994年に町が施行した「まちづくり条例」に基づく建築物の指標。背戸道の重要性を説いた「静かな背戸」、土地の傾斜に角度を合わせるよう促した「舞い降りる屋根」、みかんの産地らしく庭に果樹を植えるよう求めた「実のなる木」など六十九のキーワードでできており、感覚的な言葉と写真で百六十七ページの冊子にまとめられている。
F.I.N.編集部
日本人にとっては原風景とも言える暮らしが今でも営まれている土地なのですね。お二人はもともと、東京や海外など、各地を転々とされてきたそうですが、田舎町に住まわれたいと思ったのには何か理由があったのでしょうか。
川口さん
大きな理由としては、これからは東京よりも地方が面白いんじゃないかなと感じたことです。移住を検討していた2015年頃、ちょうど地方で新しい活動する人がぽつぽつ増え始めていました。これから自分たちで仕事を作りたいと思っていたので、自分たちもその流れに乗りたいなと思いました。また、地方の方が、生活費を抑えられることも大きかったですね。あとは、もともと妻が、特別観光地ではないところでゲストハウスをやりたいという思いを持っていたことも理由です。以前妻は、フィリピンのある観光地で、日本人向けのゲストハウスをやっていたのですが、たくさん訪れるお客さんを捌くことで日々精一杯になってしまっていたそうなんです。これからは一人ひとりのお客さんに丁寧に向き合い、静かなところで普通の日本の暮らしを感じてもらいたいという思いから、地方がいいと考えました。
F.I.N.編集部
なるほど。最終的に真鶴町に決めたのはどうしてですか?
川口さん
他にも何箇所か見たのですが、真鶴が一番、人の縁が繋がっていったんです。真鶴にはそもそも、ある人の紹介で出会ったのですが、その人からどんどん他の人を紹介してもらい、 そこで会う人たちがみんな、自分と性格が合ったり、友達になりたいと思ったりするような人たちでした。
F.I.N.編集部
”人”が決め手になったということですね。そこで、出版業とゲストハウスの〈真鶴出版〉を始めることになるかと思うのですが、そもそも川口さんが編集の仕事をしようと思われたのはどうしてだったんですか?
川口さん
大学時代に〈SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS(SPBS)〉という渋谷の出版社で1年間インターンをしていました。きっかけは友人に誘われたこと。大学4年生の時間があった時だったので、特に何も考えずに始めて。その間に、編集や広告の仕事などをやらせてもらい、出版の“いろは”をかじりました。大学卒業後はIT系の企業に就職しましたが、仕事以外に私生活で何かやりたいと思っていました。出版なら少し経験があるし、やろうと思えばできるんじゃないかと思って、リトルプレス(*2)と呼ばれるような自費出版でトラベルマガジンを作りました。それ以来、編集の仕事がだんだん好きになっていったという感じです。
*2 リトルプレス 個人や団体が自らの手で制作した少部数発行の出版物を指す。
F.I.N.編集部
なるほど、次第に興味が深まっていったということでしょうか。
川口さん
そうですね。それで自然と今、仕事になりました。妻のやりたいゲストハウスとは、もともとは別々でやろうと思っていて、出版社としての〈真鶴出版〉を先に始めていました。一方で、ゲストハウスの名前をどうしようかというのをいろいろ話し合っていた時に、ふと「あれ、もう宿泊施設も〈真鶴出版〉でいいんじゃない?」っていう話が出たんです(笑)。「泊まれる出版社」っていうキーワードもすぐに思い浮かんで、キャッチーなので良いかなと。
F.I.N.編集部
偶然思い至ったんですね。出版業とゲストハウスを両立することで生まれる+αは何かありますか?
川口さん
まずは、出版業自体が、宿の広報になるということ。普通、ゲストハウスのチラシというのは、置く場所が限られてきますが、僕らの場合、今全国の40店舗くらいに本を置いてもらっていて、その本自体がチラシになるんです。書店さんがインスタグラムやツイッターで、「『泊まれる出版社』の新作が入荷しました、と投稿してくれるのも宣伝になります。 もうひとつがリアルな部分。出版は委託の仕事が多いので、2、3ヶ月仕事をして、それが終わって納品した翌月、翌々月にお金が入ってくるのが普通です。仕事のサイクルが大きくて、お金が入ってくるのも遅いのですが、宿泊の場合、毎日入ってくるので、日銭を稼ぐことができる。両輪があるというのは、良いところかなと思います。
F.I.N.編集部
編集者の目線で見た真鶴の魅力を、宿泊する方に向けては何かアウトプットされていますか?
川口さん
編集者目線だからこそかどうかは分かりませんが、うちの宿泊業の特徴として「町歩き」と呼ばれるツアーをつけています。これは、泊まってくれたゲストに対して、2時間くらいかけて町を歩いて案内するという取り組みです。真鶴と言うと、三ツ石海岸や美術館など、いくつか定番の観光スポットがありますが、このツアーではそうではなく、普通の路地裏などを案内して、「ここのベンチがいいですよね」だとか、「実はここからの眺めはすごく素敵なんですよ」とか、一般的な観光案内ではたどり着けない場所を紹介しています。さらに、港で小商いをされているお肉屋さん、パン屋さん、酒屋さんなど、普通の観光客だとたどり着けないようなお店にも案内。お客さんによっては、そのお店の人とそこで仲良くなって、何回もリピートしてくれることもあるんです。今まで推し出していなかった真鶴の魅力を僕らなりに探して、宿のお客さんにご案内しています。
F.I.N.編集部
まさに真鶴の普通の暮らしに触れられる「旅と移住の間」を感じる取り組みですね。推薦してくださった宮崎さんは、お二人の働き方にも未来を感じるとお話ししてくださいました。”働く”ことについては、どうお考えですか?
川口さん
もともとの自分の夢は、「働くことが遊びになること」です。大学時代にアルバイトしていたパスタ屋さんの店長が、「自分の周りにはパチンコや競馬など、ギャンブルをやっている人が多いけど、全然俺はやる気にならないんだよな」と言っていました。なぜかと聞くと、「このお店が俺にとっては、ギャンブルであり、遊びだから」と一言。こういう考え方もあるのかと新鮮に感じ、自分もそういう働き方をしたいと思い始めました。 そして今真鶴に来て、さらに考えが一歩進みました。真鶴には、昔ながらの商店が多いからかもしれませんが、暮らしと仕事の境がほとんどない方が多いんです。プライベートで会った人と仕事の場面であっても、全然変わらない。取り繕っていない感じで、それがすごく素敵だなと。 例えば、僕はひもの屋さんと仲が良くて、よく飲みに行きます。一方で、そのひもの屋さんから自分の宿でお出しするひものを買っている。つまり、遊び仲間でもあり、仕事仲間でもあるということ。”働く”と“暮らす”が極力近いまま過ごすことができたら、より良いなと思っています。
F.I.N.編集部
素敵なお考えです。〈真鶴出版〉の今後の目標について教えてください。2号店はもうオープンされているんですか?
川口さん
まずは、〈真鶴出版〉の2号店が徐々に営業を始めたので、まずは2号店を安定して運営できるようにしていきたいです。あとは、最近は2号店の準備で宿づくりや場づくりの方ばかりやっていたので、もうちょっと出版業も頑張りたい。次は、町内の人の真鶴の見方を変えるような、町内向けの出版物を作ってみたいなと思っています。
F.I.N.編集部
今は地方の移住がトレンドにもなっていますが、移住を検討されている方に向けて何かアドバイスはありますか?
川口さん
アドバイスになるかどうかは分からないんですけど、ちょっとずつ始めることが良いのかなと思っています。いきなり物件を購入して移住するよりは、最初は二拠点にしてみたり、月に1回通ってみたり、それが大丈夫なら、次に賃貸してみて……、というように始めるのが良いのではないでしょうか。
F.I.N.編集部
お二人も真鶴町の試住体験プログラムを活用されたそうですね。
川口さん
そうです。それは移住者にとってはもちろんですが、受け入れる街側にとっても良いことだと思います。
F.I.N.編集部
双方のマッチングが大切ということなのですね。本日はありがとうございました。
真鶴出版
〒259-0202 神奈川県足柄下郡真鶴町岩217
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