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2019.04.09

未来を仕掛ける日本全国の47人。

42人目 熊本県熊本市 認知症カフェ〈as a café(アズ ア カフェ)〉プロデューサーの岡元奈央さん

F.I.N.編集部が1都道府県ずつ順番に、未来は世の中の定番になるかもしれない“もの”や“こと”、そしてそれを仕掛ける“人”をご紹介します。今回取り上げるのは、熊本県熊本市。株式会社studio-L代表・コミュニティデザイナーの山崎亮さんが教えてくれた、介護事業所NPO法人「あやの里」副代表・認知症カフェ〈as a café(アズ ア カフェ)〉プロデューサーの岡元奈央さんです。

 

この連載企画にご登場いただく47名は、F.I.N.編集部が信頼する、各地にネットワークを持つ方々にご推薦いただき、選出しています。

最期まで笑って生活できる社会づくりを目指す人

将来、人口の4分の1が高齢者になる日本において、社会問題の大きなテーマのひとつとなる認知症。今回ご紹介するのは、まだまだ誤解や偏見が多い認知症について、様々なイベントや取り組みを行いながら解決を目指す岡元奈央さんです。その活動の拠点となるのが、自身が運営する認知症カフェ〈as a café〉。熊本県熊本市山ノ内にある認知症を専門とする介護事業所NPO法人「あやの里」の敷地内で、2015年よりスタートしました。この場所をプロデュースした岡元さんは、15年間客室乗務員として勤務したのち、介護・福祉業界へ転身。“豊かな高齢化社会を熊本からつくっていくこと”をコンセプトに、認知症のある方もそうでない方も「ともに生きる」社会を目指して活動を続けています。紹介してくださったコミュニティデザイナーの山崎亮さんは、「岡元さんは、介護や福祉が地域とつながり、健康な人も含めて『いつかは自分たちも通る道だ』と思いながら、できる範囲で支え合う拠点を運営されています。未来は超長寿社会になることは確かなので、こうした取り組みが増えることを願いたいです。自分が高齢になった時に、実現していてほしい社会がここにあるような気がします」と話します。そんな岡元さんに、自身の活動や大切にしていること、介護・福祉業界のこれからについてお話を伺ってみます。

2018年度グッドデザイン賞も受賞した<as a café>の外観。

F.I.N.編集部

今回は、岡元さんが運営する〈as a café〉についてや認知症が抱える課題、未来についてもお話を伺いたいと思います。岡元さんが拠点を置く熊本県熊本市はどんな場所ですか?

岡元さん

熊本県は、水の都と言われ、天然地下水が豊富。阿蘇山の雄大さも魅力のひとつですね。また「熊本モデル」と呼ばれる認知症対策の医療システムは、熊本県独自の仕組みで海外からも注目されていますし、病院の数も多く、医療面でも恵まれた県だと思います。厚生労働省認定で、認知症に対する正しい知識と理解を持ち、地域で認知症のある方やその家族に対してできる範囲で手助けする「認知症サポーター」の取得率も1位なんですよ。

 

〈as a café〉の内観。

F.I.N.編集部

岡元さんが運営されている「as a café」について教えてください。

 

岡元さん

「認知症カフェ」は、2012年頃からできはじめて、今では全国に2500件以上あると言われているのですが、実際には、イベント時のみ稼働するなど常設で運営している認知症カフェは多くありません。〈as a café〉は介護事業所NPO法人「あやの里」の敷地内にあり、毎日9時から17時まで開放。貸し切り以外は無料で利用でき、認知症のある方だけでなく、誰でもカフェのように使える場所になっています。介護事業所に入っても、社会との接点が持てる交流の場として、コンサート会場になったり、勉強会の会場になったり、会議室になったりと、様々なことを共有できる空間です。

小学校も近く、子どもたちの遊び場としても賑わっています。

F.I.N.編集部

内装も街にあるカフェのようで、気軽に立ち寄りたくなる雰囲気ですね。

岡元さん

最初はお年寄り目線で、日本家屋という案もあったのですが、子どももお年寄りも、認知症のある方もそうでない方も、認知症に関心がない人でも、気軽に集って同じテーブルで話ができる場所をつくりたくて、あえてカフェようのようなデザインにしました。小学生もお年寄りと同じ空間で過ごし、自然と会話も弾んでいます。「豊かな日常を作る」「地域と共に生きる」をキーワードに、カフェがあるだけでこんなに生活が豊かになるんだと思える場所を目指しています。

F.I.N.編集部

地域の憩いの場となっているのですね。〈as a café〉では、具体的にどのような活動をされているのでしょうか?

岡元さん

熊本の大学生を主体とした「オレンジプロジェクト」と〈as a café〉のコラボプロジェクト「Orange Community Lab(オレンジ・コミュニティ・ラボ=OCL)」を大学生が主宰しており、〈as a café〉を場として認知症のある人やその家族が安心して暮らせる社会を目指して活動をしてくれています。例えば、お茶会やお年寄りと子ども達が一緒に和菓子を作るワークショップから認知症サポーター養成講座などの勉強会を企画して、様々な形で認知症のお年寄りと触れ合う時間を作っています。10代、20代の若い世代の方々が、お年寄りとのコミュニケーションをとるのはなかなか難しいことだと思うのですが、一生懸命お年寄りのことをちゃんと思いやって接してくれています。

認知症サポーター養成講座の様子。

熊本の郷土菓子「いきなり団子」をお年寄りと子どもたちが作るワークショップ。子どもとお年寄りの「いきなり団子って作れるの?」「教えてあげようか」という会話から実現したのだそう。

F.I.N.編集部

日本の介護・福祉業界の現状や課題などについて、岡元さんが感じていることについてお聞かせください。

岡元さん

今の介護・福祉業界では、高齢者が地域の中で自分らしく暮らし続けられるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される「地域包括ケアシステム」を実現することがキーワードです。認知症を含むお年寄りのライフケアにおいて、自立を促して地域で生きることを推進しています。介護従事者だけでなく、30分圏内に暮らす地域の人みんなで助け合うことが必要だという考えに徐々に移行していますが、ここで当事者意識のなさも問題のひとつになっています。これから高齢化がどんどん進み、認知症や介護は他人ごとではなく誰でも関わる可能性があり、約8割の人が要介護になり得ると言われています。“最期”を送るにあたり、環境や家族・友人など身近な人の認識不足が、認知症を悪化させることもあるんです。

F.I.N.編集部

認知症のある方と接する機会がない方や若い世代には、どうしても他人ごとに思えてしまうかもしれませんね。岡元さんは異業種から介護・福祉の世界へ関わるようになり、気づきや感じたことはありますか?

岡元さん

介護・福祉の世界に対して、今でもいわゆる「3K」とマイナスイメージを持つ方は多いと思います。すべてを否定はできないし、まだまだ課題だらけですが、実際に関わっている人たちは、みんなが我慢しながらやっている世界ではありません。どうしてもマイナス面がクローズアップされがちですが、大変な中でも介護職員も喜びとやりがいを持って携わっている人が多いのも事実です。これまでの介護・福祉は、認知症の家族がいることを隠したり、施設のお世話になることに罪悪感を感じたりとクローズされた世界でした。でも今はまさに変換期で、これからは“地域の時代”だと言われています。一般の方の意識が変わるのはもう少し時間がかかるかもしれませんが、だからこそいろいろな人がアプローチする必要があると感じています。実際に私のように異業種からこの業界へ関わりはじめている方も増えています。先ほども触れましたが、認知症は関わる人が多く、まわりの人や環境の影響で症状も大きく変わり、社会的影響が強いと言われています。暴力行為や徘徊、被害妄想などもまわりの環境による人災とも言われています。それも、まわりの人の当事者意識のなさが要因だと考えられます。

認知症家族の会「まだ名前のない会」の様子。

F.I.N.編集部

どのようなきっかけで、このお仕事に携わるようになったのでしょうか?

岡元さん

母が約40年認知症介護の仕事に携わり、「あやの里」を立ち上げて現在に至ります。私は15年間客室乗務員として働き、「あやの里」を継ぐ形で副代表に。私が中学生の頃、母の仕事について聞くと「本当の親子に戻す仕事なのよ。感動の毎日よ」と話してくれたことがあります。この世界に入ってやっとその意味がわかりました。ある家族の話ですが、認知症の介護で心身ともに疲れて実母に対して愛情や優しさを持てなくなってしまい、施設へ来られた方がいました。施設で過ごすお母さまがどんどん穏やかになっていくのと同時に、その方もお母さまへの愛情や優しさを取り戻していく姿を見て、「本当の家族に戻す」とはこういうことだったんだとわかりました。

この世界に入って8年、もちろん大変なこともありますが、それはどの職業でも同じ。それよりも「なんて素晴らしい世界なんだろう」と、日々喜びを感じています。

F.I.N.編集部

お仕事を通して、岡元さんの軸になる考え方や大切にしていることを教えてください。

岡元さん

認知症の人もそうでない人も、関心がある人もない人も、垣根をこえて「生活をともにする」「ともに生きる」ことを大切に考えています。介護は、「その人らしさを支える」こと。これについていろいろと考えた結果、すべては「自己実現」だと気づきました。その人が何を実現したいかは、その人に聞くしかないので、相手の意思を尊重して耳を傾けていきたいと思っています。また、お年寄りを見ていると「今を大事に生きている」姿にとても感動します。花が咲いたね、風が気持ちいいね、と「今」を楽しむことは一番の幸せであり喜び。生きるって素晴らしいなと日々実感させてもらっています。介護は、生きることを支えてくれているんだなと思います。

F.I.N.編集部

介護・福祉業界の未来、「as a café」の未来をどう想像しますか?

岡元さん

山崎亮さんの「デザインは課題を解決するためにある、興味がないものに興味を持ってもらうためにある」というお話を聞いて、地域で助け合うことが必要な介護・福祉業界において、コミュニティデザイン的な視点が必要なんだと、新しいアプローチの仕方に気づかせていただきました。〈as a café〉も楽しみを創造できるクリエイティブな場にしていけたらと思っています。年をとっても、認知症になっても、自分らしく笑顔で生きることはできる。笑顔で過ごしている認知症のある方を見て、今の若い世代の人たちが感じている未来への不安を少しでもなくしていきたいですね。こういう生き方を選ぶと、こんな未来があるんだと思える選択肢を見せてあげられるような環境をつくっていく必要があると思います。〈as a café〉を最高に豊かな場所にするためにも、いつでも身近でオープンな、魅力的で刺激を受けられるような場所であり続けたいと思っています。

認知症カフェ<as a café(アズ ア カフェ)>

熊本県熊本市山ノ内2-1-14 NPO法人あやの里

096-360-3511

9:00〜17:00

不定休

http://ayanosato.net/asacafe

 

 

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