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2018.05.29

未来を仕掛ける日本全国の47人

9人目 東京都江東区 CIRCUS代表 鈴木善雄さん

毎週、F.I.N.編集部が1都道府県ずつ巡って、未来の定番になるかもしれない“もの”や“こと”、そしてそれを仕掛ける“人”を見つけていきます。今回向かったのは、東京都江東区。バイヤーの山田遊さんが教えてくれた、複合商業施設〈CASICA〉の空間設計とプロデュースを手掛けるCIRCUSの鈴木善雄さんをご紹介します。

この連載企画にご登場いただく47名は、F.I.N.編集部が信頼する、各地にネットワークを持つ方々にご推薦いただき、選出しています。

”もの”と”もの”、そして”人”と”もの”との新しい関係性を提案する人。

新木場駅から歩いて3分。ひときわ目立つ倉庫建築が目印の〈CASICA〉には、生まれた年代や国籍、価格帯を問わず、様々な家具やプロダクトがずらりと並ぶショップを軸に、クリエイターと組んで手がけたカフェやアトリエ、ギャラリーが広がり、スタジオやレコーディングルームも併設されています。

この〈CASICA〉に未来を感じると推薦してくれた山田さんは、「東京という大都市にありながら、今、日本の地方から生まれているような活動と同様のチャレンジングさや新しさを感じます」と話してくれました。トータルプロデュースを手掛ける鈴木さんにお話を伺ってみましょう。

F.I.N.編集部

鈴木さん、ご無沙汰しております。F.I.N.のご登場は2回目ですね。

鈴木さん

お久しぶりです。

F.I.N.編集部

今回は〈CASICA〉について教えてください。よろしくお願いします。

鈴木さん

よろしくお願いします。

F.I.N.編集部

鈴木さんは以前から、空間設計から店舗などのクリエイティブディレクション、イベント企画などを行って来られたと思います。〈CASICA〉という大きな商業施設をトータルでプロデュースすることになった当初、どんなビジョンを持たれていましたか?

鈴木さん

今は、あまり時間をかけなくともあらゆる情報が得られる、便利な時代だと思います。さらに、都心には素晴らしい雑貨屋や家具屋がたくさんあり、またその商品はオンラインでも購入できますよね。すでに色が出来上がっているフィールドの中へ割って入るより、まだ色のないエリアで、古家具や古道具という一点ものを中心としたセレクトで、実際に見に来て、その空間で体験をしないと分からないような価値を提供できるお店を作りたいと思っていました。

F.I.N.編集部

そうした中で、新木場という街、そして現在の建物に出合われたんですか?

鈴木さん

そうですね。いろいろと探していたところ、もともとは銘木倉庫であった新木場のこの物件を見つけて、直感的に「ここだ!」と思いました。一般的にはあまりイメージがないと思いますが、新木場は「木の街」です。日本の古家具、古道具を扱うには最も適した場所だと感じました。また、この物件のオーナーである株式会社福清商店さんも、他のさまざまな企業から申し込みがある中で、私たちの活動を面白いと思って下さり、貸していただけることになりました。

F.I.N.編集部

運命的な出合いだったんですね。〈CASICA〉の「生きた時間と空間を可視化する」というコンセプトにはどんな思いが込められているんですか?

鈴木さん

家具やプロダクト、アートやデザイン、職人や工房、食、健康、映像、声など、多様な時代・地域・人によって生み出され、これまで同じ空間で扱われてこなかったものやことが集まる未知の感覚を、新鮮なスタイリング空間として可視化する、という意味が込められています。

F.I.N.編集部

「これまで同じ空間で扱われてこなかったものやことを集める」。これはどんな経験から着想を得られたんですか?

鈴木さん

自宅の改装をしている時でしょうか。インテリアの方向性に悩む妻に、「ただ自分の本当に好きなものだけを集めれば、矛盾はしないよ」という言葉をかけたことを覚えています。ミッドセンチュリー、その次は北欧風など、世の中には”流行”がありますが、人の興味をカテゴライズして判断することは無理だと思うんです。一見相反すると思われているものであっても、それが相反するとも限らないですし、同時に好きである場合もあるのではないでしょうか。

F.I.N.編集部

つまり、素直な”好き”を集めた結果、これまで同じ空間で扱われなかったものやことが共存することになったということでしょうか。

鈴木さん

はい。〈CASICA〉はセレクトショップです。昔のセレクトショップはもっと、セレクトしている人の顔や、その人っぽさが見えていたような気がします。〈CASICA〉の商品は、大きなタンスも小さな石ころも、すべて私たち夫婦で選んでいます。競りで買うものも、フリーマーケットで仕入れるものも、海外で買い付けるものも、ウブ出し(※1)で入手したものも。私たちの好きなものが集まっているんです。ただ、もしかしたら来年には私たちの好きなものは変わるかもしれません。そうしたら〈CASICA〉のセレクトも変わります。価値も関係性もすべてが変化していくもの。その一瞬一瞬で感じている私たちの価値観やもの同士の関係性を〈CASICA〉にてお見せすることができればと思っています。

※1 ウブ出し

個人の自宅や蔵などをまわり、直接骨董品を買い付けること。

F.I.N.編集部

そもそも、鈴木さんはどんなきっかけで”もの”に興味を持たれるようになったんですか?

鈴木さん

以前はあまりものに執着はありませんでした。20代前半の時、オーストラリアとヨーロッパに1年数ヶ月ほど行くことに決めました。出発に際しては住んでた家を引き払い、実家にはダンボール2つくらいまでしかものは置けないと言われてしまっていたので、ほとんどすべての荷物を手放したのですが、まったく困らないくらいでした。ですが、日本に帰って来た時にバルセロナで買ったなになに、とか、ウィーンで買ったこれこれ、とか、捨てられないものが増えてしまったんです。ものに興味を持つようになったのは、それからな気がします。

F.I.N.編集部

以前は執着が無かったというのは意外ですね。ものや情報に溢れた今の社会で、「理想のものとの出合い方」について、鈴木さんはどうお考えですか?

鈴木さん

〈CASICA〉の大事なコンセプトのひとつに、民藝や手仕事、作者の知名度や価格、新品か中古といったタグ付けを外すというのがあります。基本的には、商品に説明を付けていないんです。それは予備知識が好き嫌いに影響を与えて欲しくないから。例えば、ひとりの器作家さんの作品で考えても、こっちは好きだけど、これは嫌いって普通にあるはずですよね。なのに、あの作家さんの作品だから好きだと決めつけてしまうことがあると思います。他にも、これは江戸時代後期の器だから高くていいものに違いないと思い込んでしまったり、新しいプロダクトには興味がなく骨董だけが好きだと決めつけてしまったり……。本当は、”好き”って最もシンプルな感情で、説明ができないものだと思います。“なんか好き”という言葉でものを手に取れることが一番正しいと思っていますね。

F.I.N.編集部

なるほど。その”なんか好き”から手に取れるようにしたいという思いは、商品のディスプレイにも表現されているんでしょうか?

鈴木さん

はい。具体的には大きく3つの方針があります。まずは、新しい使い方の提案をすること。昔の道具などは今となってはそのまま同じ用途には使用しないものが多くあります。茶道の見立てのように新しい使い方を提案することも意識しています。次に、ストーリをつくること。ただ、ものを置くだけでなく、歩きながら自然に奥へ奥へと足が向くように、今手に持っているものの横を見て、「あっこういうのもいい、あっこういうのも!」という繋がりを意識して並べるようにしています。そして最後に、同じような国や年代、関係性だけでまとまらないようにすること。アフリカの草ビロードの横には日本の酒袋があるなど、新しい関係性を提案するように並べています。商品の什器などはすべて一点ものです。売れてしまったら商品のラインナップも変わるということなので、CASICAでは毎日のようにレイアウト変更を行なっていますし、月に2回くらいは大掛かりな変更をしています。これはスタッフたちも頑張ってやっていますよ。

F.I.N.編集部

なるほど。だから訪れるたびに、思いがけない出合いがあるんですね。今後、〈CASICA〉を通して取り組みたいこと、実現したいことは何ですか?

鈴木さん

今はまだまだ足りないことや間に合っていないことを進めていますが、夏にはカフェで、期間限定でビアガーデンのような業態も始まります。徐々にではありますが、来年度以降のギャラリーでの作家さんの個展も決まってます。ギャラリーなどを使って、いろいろな方を巻き込んで試してみたいですね。

F.I.N.編集部

今後が楽しみです。最後に、未来に向けて、鈴木さんご自身が取り組みたいと考えていることを教えてください。

鈴木さん

情報が溢れ、様々なことに利便性が求められる今だからこそ、アナログな感覚を大事にしたいと思っています。〈CASICA〉においても実際に、大きな空間に並べられた商品を見て、ものに触れ、木材の香りを嗅ぎ、薬膳ベースの食事を味わい、天井からは新木場で作られた〈TAGUCHI〉の木製スピーカーからの音を聴き、人と会話を楽しむという体験ができ、その中から新しい発見も生まれているはずです。そこでしか体感することができない価値を提供できる場を様々な角度から作っていければいいですね。

F.I.N.編集部

デジタルな感覚が浸透した時代だからこそ、一歩立ち止まってアナログに“人”や“もの”、“こと”と向き合うことが必要なように感じますね。貴重なお話をありがとうございました。

CASICA

〒136-0082 東京都江東区新木場1-4-6

TEL:03-6457-0826

営業時間:11時〜19時(カフェのラストオーダーは18時半)

定休日:月曜日(月曜が祝日の場合は営業、翌火曜日休館)

7月より、カフェと外スペースでビアガーデンスタイルの夜の営業が始まります(予約制)。

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