地元の見る目を変えた47人。
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2019.03.04
未来を仕掛ける日本全国の47人。
毎週、F.I.N.編集部が1都道府県ずつ順番に、未来は世の中の定番になるかもしれない“もの”や“こと”、そしてそれを仕掛ける“人”をご紹介します。今回取り上げるのは、島根県出雲市斐川町。「スタジオ木瓜」代表の日野明子さんが教えてくれた、出西窯・代表の多々納 真さんです。
この連載企画にご登場いただく47名は、F.I.N.編集部が信頼する、各地にネットワークを持つ方々にご推薦いただき、選出しています。
器の未来に新しい道筋を見出し、挑戦するヒト
出西窯は、昭和22年に青年5人が協働して築いた窯元です。民藝運動の指導者でもある柳宗悦氏の民藝の教えを受け、「野の花のように素朴で、健康な美しい器、暮らし道具」を指針に、また「郷土の土や釉薬の原料を大切にする」「手の延長の小機器は利用しつつ、手仕事であること」「実用の陶器、腕を磨いて数多く、安価に」をモットーに、モノづくりを続けてきました。現在も登り窯での作陶をしており、島根県の素材を使い、昔ながらの自家製の釉薬を使い、地域に根ざした地元に愛される窯元を目指しています。今年完成した、器のある暮らしを提案する場所「出西くらしのvillage」について、「これまでの出西窯を大改造して再スタートを切っていて注目しています」と日野さんも今後を楽しみにされています。代表の多々納さんに、この場所をつくったきっかけや想い、これからの器産業についてお話しを伺ってみます。
F.I.N.編集部
今回は出西窯の新たな試みについてお話を伺えればと思います。どうぞよろしくお願い致します。出西窯がある島根県出雲市斐川町について教えてください。
多々納さん
出西窯は、田んぼの中にぽつんと工房があります。まわりには何もないような、いわゆる“片田舎”です。地方の商店街がシャッター街になって……などとよく聞くと思いますが、この辺りは商店街もないような場所です。出雲は、スサノオのミコトが八岐大蛇を退治して、結婚生活を送った土地としても知られる歴史ある村でもあります。歴史を感じて、空気を感じて、水が流れる豊かな場所です。もともと創業したメンバーもこの村で育った仲間たちです。農家の次男と三男をはじめメンバーは、みんなが地元にいたいなら自分たちで何か始めるしかないと、未経験で工房を構えたのがはじまりです。
F.I.N.編集部
今回ご紹介くださった日野明子さんも注目されている「出西くらしのvillage」について教えていただけますか?
多々納さん
出西窯の窯元直売所「くらしの陶・無自性館」とベーカリーカフェ「ル コションドール出西」、神戸発のショップ「Bshop出西店」の3店舗が集合しています。器を中心に、衣食住など暮らしの提案をする場所としてオープンしました。
F.I.N.編集部
どのような場所を目指していますか?
多々納さん
手仕事の器に触れるきっかけになってもらえると嬉しいです。窯元の直売所だけでは、わざわざ訪れようと思う人が少なく、どうしてもお客さまが限られてしまいます。ファッションに興味を持って来てくれるのか、カフェに興味を持って来てくれるのか、それぞれ違うと思いますが、違う視点からのアプローチで、今まで器には興味がなかったけど、この場所を訪れることで、知るきっかけづくりになればと。デパートの催事ではいろいろなモノを集めることで人も集まり、相乗効果がありますよね。そのような感じで小さいデパートを作ったようなイメージです。
F.I.N.編集部
このような場所を作ろうと思ったきっかけはありますか?
多々納さん
1つは、お客さまに、器の使い方や器のある暮らしと提案していく場所が必要だと思ったことです。窯元で器を展示販売していて、「この器は何に使えばいいですか?どんな料理に合いますか?」と聞かれることが増えました。それで、器の使い方の1案として、料理を盛り付けた写真などをアルバムにまとめてお客さまに見ていただくと、興味深く見てくださって。器の購入を迷っていても、使った様子を見ることで安心して購入していただけるので、もっとこんな風に使えるんですよと伝えるための冊子が必要だなとかいろいろと考えてやっていたんです。その延長で、カフェなら実際にお料理と器の使い方を見ていただけるし、もっとわかりやすいかもしれない、ということでベーカリーカフェをオープンしました。
そしてもう1つは、経済的なこと。次の世代に報酬を払えるような環境づくりをしないといけないと考えた時に、卸を増やすのは結果的に自分の首を絞めてしまうなと思いました。卸で販売するより、直売の方が利益率が高いのが現実です。わざわざ直売所に足を運んでもらう仕掛けが必要だなと思いました。
F.I.N.編集部
卸を増やすことは結果的に自分の首を絞めてしまうのはどのような意味でしょうか?
多々納さん
器を販売したい人、アーティストや作家として作品を作りたい人は増えているかもしれません。でも職人として食器や道具を作りたいという人は減っているのが現状です。それでも、ここで一緒に続けていきたいと言ってくれる人もたくさんいるので、そういう人たちが、結婚をして子育てをして子どもを大学に通わせていけるような収入を得ることができる環境にしていかなくてはいけないですよね。卸が増えると数をたくさん作る必要があるんですね。手仕事で作るには人の数も必要だし、原材料も電気代もかかります。そして、やはり小売価格もいろいろな経費を上乗せするためどうしても通常より高く設定せざるを得ません。
F.I.N.編集部
利益を上げる=小売価格を上げるという選択肢はなかったでしょうか?
多々納さん
出西窯では先代からの理念をとても大切に守り続けています。職人の手仕事であること、実用的な「用の美」を追求した器で安価であること、そして地元に愛されるような窯元にならなくてはいけない。小売価格をあげることは、これでは理念とずれてしまうんです。何より消費者にとってもよくない。卸をしていろいろな場所で販売をすれば、たくさんの方に触れていただけるかもしれませんが、地元の方が欲しい商品が半年待ちなどになってしまっている現状は良くないと思っていて。やはり、手仕事であっても昔ながらの自家製の釉薬を使っていても、安価でなければ意味がないと思っています。この場所が盛り上がれば、窯元価格で地元できちんと販売をして、職人さんへもきちんと払ってあげたい。そうでないと次の世代も、この仕事をやりたいと思わないですよね。
F.I.N.編集部
次の世代へ繋ぐことにもつながるのですね。今後地方の地場産業や伝統産業のこれからについて、どんなことが必要だと考えられますか?
多々納さん
地域産業や伝統産業は、シェアしていくこと、伝えていくことが大切だと思います。出西窯も、焼き物の経験もないのに、いろいろな方に教わってこれまで続いています。現代は、個人を高めていく方が勝っていて、「伝える」ことをあまりしていないように見えます。地域の歴史を背負って行く貴重な職人、名もない人たちにもシェアしていかないといけないですよね。個の名前は出さなくても、器を日常の道具として使ってくださいと思っています。それが民藝だなと。現代の民藝を考えて、地域が一緒になって伝えていくことで、各地域の産業は残っていくのではないでしょうか。
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