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2019.04.23
未来を仕掛ける日本全国の47人。
F.I.N.編集部が1都道府県ずつ順番に、未来は世の中の定番になるかもしれない“もの”や“こと”、そしてそれを仕掛ける“人”をご紹介します。今回取り上げるのは、鳥取県・大山町。株式会社studio-L代表・コミュニティデザイナーの山崎亮さんが教えてくれた、大山町が運営するケーブルテレビ「大山チャンネル」を制作するアマゾンラテルナの貝本正紀さんです。
この連載企画にご登場いただく47名は、F.I.N.編集部が信頼する、各地にネットワークを持つ方々にご推薦いただき、選出しています。
テレビを通して、地域に笑顔と活気を生み出す人
「大山チャンネル」は、鳥取県・大山町の自治体が運営するケーブルテレビの番組。番組に出演する人はもちろん、企画や裏方まで町の人たちで行う住民参加型番組で、月に3本制作して10日ごとに更新されています。もともと東京の番組制作会社で制作に携わっていた貝本正紀さんは、番組づくりを通して、地域の人たちみんなが活き活きと過ごせる場を作り、自分たちの町をもっと好きになれるきっかけを生み出しています。コミュニティデザイナーの山崎亮さんは「地元の若手を起用して仕事づくりにつなげたり、大山町の活動人口の増加に貢献されています」と紹介してくれました。縁もゆかりもない大山町へ移住して、番組制作を始めたきっかけや制作の裏側、貝本さんが目指す地方活性などについてお話を伺います。
F.I.N.編集部
鳥取県・大山町はどのような土地ですか?貝本さんが感じる特徴と魅力を教えてください。
貝本さん
鳥取県は人口が一番少ない県として知られています。その西部に位置する大山町には、中国地方で一番高い山、大山があり、海もあって自然が豊か場所です。農業や林業、漁業も盛んで、一次産業がすべてありますが、魅力というよりは課題が多い町です。昔は観光地として栄えていたけれど、今はそれも減少。歴史も観光資源もあるけれど、裏を返すとそれは課題にも繋がっています。人口も年々減っている状況です。大山町には高校がなく、中学を卒業したら近隣都市の高校に通います。一般大学も鳥取県に2つしかないので、入れない人は違う県へ出て行きます。若者たちが暮らし続けるには難しい場所で、いわゆる典型的な地方の町です。
F.I.N.編集部
鳥取県大山町に移住するきっかけは山崎亮さんだったと伺いましたが、山崎さんとの出会いについて教えてください。
貝本さん
東京の番組制作会社で働いていた時、町づくりをテーマにした番組で、ゲストとして山崎亮さんに出演していただいたのが出会いのきっかけです。ちょうど仕事で地方へ訪れることも多く、「地方活性化」や「まちづくり」への関心があり自分で勉強しはじめたところでした。そんな時、取材で山崎さんと一緒に訪れたのが鳥取県大山町でした。
F.I.N.編集部
その後、「大山チャンネル」を作ることになった経緯を教えてください。
貝本さん
初めて訪れた時に大山町の役場の方と話す機会があり、「テレビを使って町の人たちを巻き込むことで、町を変えたいんです」と話したところ、役場の方が興味を持ってくださって。大山町には、自治体が運営している住民だけが見ることのできる、ケーブルテレビ番組がありました。一応行政情報を発信するメディアなのですが、流れるのは行政のイベントや文字情報が多く、ほぼ見ている人がいなかったようです。それまでは大勢の顔が見えない人たちに向けて、テレビ番組を制作していましたが、「顔の見える人たちに喜んでもらえるような、暮らしに役立つような番組を作りたい」と役場の方に改めて提案したところ、番組制作をすべて委託してもらうことに。そこで、東京で勤めていたアマゾンラテルテの鳥取大山支社という形で、2015年に大山町にある空き保育園にオフィスを構えました。
家族も一緒に移り住み、今は妻と子供5人と一緒に暮らしています。
F.I.N.編集部
地元というわけではなくまったく知らない土地への移住だったのですね。どんな番組を作られているのでしょうか?
貝本さん
大山町の人口は約163,00人くらいですが、自治体が運営するケーブルテレビにはほとんどの世帯が加入していて、そこで放送している「大山チャンネル」という番組です。住民同士が討論会をしたり、子供がレポートをしたりして、町の人が気になることや問題になっていることなど日常のことをテーマに発信しています。「住民参加型番組」で、出演者はもちろん、撮影や音楽、スタジオのセットなどの裏方も住民が行っています。テレビ番組の制作には、出演者や撮影、編集、美術などたくさんの役割があるので、自分が得意なこと、好きなことを生かせる場面で参加できるようにしています。絵が趣味の若者がいればテロップやスタジオセットをデザインしてもらったり、声がいいコンビニの店員さんにナレーターをしてもらったり、アナウンサーを目指している小学生にレポーターをしてもったりするなど、自分の好きなこと、やりたいことを生かせる場を作ろう、地域の人をみんな顔見知りにしよう、というコンセプトで活動しています。
F.I.N.編集部
すべて住民の方が行っているのですね。具体的にこれまでどんな番組を作られたのでしょうか?
貝本さん
生活に密着したテーマを面白くバラエテイやドキュメンタリータッチで構成します。町のおしどり夫婦に夫婦円満の秘訣を聞く『住民トークバラエティ・だいせん100%TV〜おしどり夫婦大集合』や大山町をテーマに討論する『激論!どうする大山町!?』など。住民から企画の売り込みがあることもあるんです。例えば、お手伝いをしない子供たちに、ヒーローがお手伝いの仕方を教える番組は、町のお母さんたちからのアイデアでした。
F.I.N.編集部
おもしろそうですね!町の人しか見られないのが残念です。裏方も住民の方ということですが、撮影や編集もしているのですか?
貝本さん
もっと映像制作をやってみたいという方を集めて「大山テレビ部」という部活のようなコミュニティを作りました。ここではカメラ撮影や編集作業など映像制作のノウハウをお伝えしています。参加したいという人もどんどん増えて、下は小学生から上は80歳のおばあちゃんまでいます。テレビ部を通して、世代を超えて幅広いつながりをつくっていくことも狙いです。これまで大山町にも地域の活動をするコミュニティはあっても、そこに若者が入ることは少なく、それなら若者が楽しく参加したくなるようなコミュニティを作ろうと。「町づくり」というとハードルが高いけれど、「テレビづくり」という形なら行政や町づくりに興味がない若者も参加してくれるし新しい交流も生まれます。先に話したお母さんたちが企画した番組も、この「大山テレビ部」の企画会議であがったものです。
F.I.N.編集部
住民たちが、生き生きと取り組んでいる姿が素敵です。こんな町づくりなら、みんなが楽しめそうですね。
貝本さん
そうですね。楽しみながら自然とそれが町づくりや地域活性につながっていくことを目指しています。町に住む人が楽しめなくては意味がないので、番組の企画も必ず地域の人目線で考えます。地域活性化のゴールは、人口が増えるとか、観光客が来るとか人が増えるとかいろいろあると思いますが、小さい田舎でそれを掲げても、結果がでるのは何年後?何十年後?ということになるんです。だからそのプロセスの中でも、住民が実感できる成果やメリットがないといけない。まずは地域の人が楽しくないと意味がないと思っています。そしてさらにそれが、将来の仕事に繋がったり、実生活にフィードバックされたりするとよりいいですよね。テレビを使ってやることは、これが実現できていると思います。
F.I.N.編集部
結果的に、住民の将来が豊かになるといいですよね。具体的に住民からの反応や変化などはありますか?
貝本さん
映像制作を体験したことで、将来、自衛隊の映像記録係になって、災害などの状況を世の中に伝えたいという夢を持って陸上自衛隊高等工科学校に入った子もいます。番組で司会をしたことで他のイベントでも司会として声がかかったり、声優に憧れていた子が、住民ナレーターを経て、プロデビューしたり。少しずつ自分の夢を叶えたりキャリアにつなげていく人が増えてきました。体験がないと、やりたいことや知識があっても憧れだけで終わってしまうことが多いけど、活動に参加して形になることで自信にもなるし、体験してはじめて目標がはっきりすることもあると思います。番組づくりを通して今までなかった選択肢が増えたのではないでしょうか。また、番組に出演してから、「話しかけられた」「友達が増えた」「人から見られるからお化粧しなきゃ」と話してくれる人も(笑)。75歳くらいのおばちゃんは、昔女優に憧れていたといってレポーターをやっているんです。夢が叶ったと喜んでくれています。メディアの影響をダイレクトに感じられるところも魅力ですね。規模が小さい分返ってくるものが大きいので、励みになります。
F.I.N.編集部
番組づくりを通して住民の夢の後押しをしてくれているのですね。貝本さんがこの活動を通して、大切に考えていることを教えてください。
貝本さん
番組論ですが、これまでのテレビ制作では、フレームの中(画面)をどう演出するかということが念頭にあったけれど、今は、フレームの外側をどう演出するか、番組の外側でどう変化が生まれるかを大切に考えて逆算して作っています。ここでは「番組を続ける、完成させる」ことが目標ではなく、「番組でつながりをつくる。地域をよくする」ことが目標です。そのために、つながりの質や量にもこだわっています。呼びかければすぐに参加してくれるような積極的な人たちだけではなく、普段あまり表に出ないような人、クラスでもいつも隅っこにいるような人っているじゃないですか。そういう人たちをあえて半強制的に巻き込むようにしているんです。意外とそういう人たちって面白い人が多くて(笑)。そこから意外な新しい接点が生まれることもあるんです。一部の人で盛り上がるのではなく広くつながっていくことが大事ですよね。
F.I.N.編集部
番組を通して、住民の生活にも変化をもたらしていますね。貝本さんの考え方のヒントになっているものがありますか?
貝本さん
フェイスブックをヒントにしています。何もしなければ中身はないけど、みんなが情報を寄せることで1つのメディアとして成立しますよね。関わっている人たちがもっと主体的になって企画を考えたり視野が広がったりすると、どんどん面白くなっていくんじゃないかな。住民参加型番組は他にもあるけど、継続的に作っているところはないと思います。
F.I.N.編集部
大山町の5年先の未来について、どんなことを想像していますか?
貝本さん
地方は誰かが発信する情報をキャッチすることで、自分たちから発信することは苦手です。受け身な人が多いんですね。町の人が、「情報を発信するって楽しいね」「もっと自分たちの街の良さを発信しよう」と思って動けるような仕組みを作れたらと思っています。今は町の中で活性化しているけど、町を出ていった人たちに向けての番組を作りたいです。町にいる人たち同士はつながりを感じられるけど、テレビを外からも見れるようにして、ふるさととの接点を感じられるシステムを作っていきたいと思っています。「俺たちは地元で元気に頑張ってるぜ」みたいな。見た人も「じゃあ落ち着いたら帰ろうかな」と思うかもしれない。東京に出て行った若者たちを追いかける番組なんて面白いんじゃないかな。いくらふるさとを好きで想っていても忘れてしまうので、その濃度を薄めないように情報を発信できればいいですね。
F.I.N.編集部
地方活性化については、さまざまな課題がありますが、これからの地方活性には必要だと考えますか?
貝本さん
地方活性や町づくりが、狭い領域になっているのが問題ではないかと思っています。専門分野みたいになっていて、難しいイメージです。だから大半の人が人ごとに感じてしまうのではないでしょうか。関わる人が少ないと、なかなか結果も出ないし、少ない人だけでずっと頑張るのも大変です。関係性もそこだけでどんどん濃いものになるけど、広がることがない。もっと新陳代謝を良くしていくことが大事だと思います。参加していない人たちがもっと楽しめるようなことを考えて、結果的に町づくりにつながるのが理想です。そして、活動が“楽しい”だけで終わらないことも大切。人生に影響を与えるような場があって、がんばったら町も良くなるような。地域が元気というより、関わっている人が、毎日を楽しく良い人生を歩むことができる。そういうものが町に生まれるといいと思っています。
F.I.N.編集部
貝本さんの活動において、今後の展望についてお聞かせください。
「大山チャンネル」の制作をはじめて、テレビにはもっと可能性があると感じています。今はスマホやパソコンでどこでも好きな時に動画を見ることができますが、自分だけが楽しむものですよね。テレビは本来みんなで見て楽しめるものだと改めて実感しています。現代のテレビ番組は、若者向けやお年寄り向けなど細分化されていて、家族みんなで見ることも減っているけど、家族で見られる番組を作り続けたい。テレビを見ながら家族や地域の人と会話したり話し合ったり、みんなで笑ったりできる世の中が理想です。そしてこれをもっと全国にも広げていきたい。情報も人の流れも東京をハブにするのではなく、もっと地方と地方がつなげていくことが目標です。それこそ本当の地域活性化につながると信じています。
アマゾンラテルナ鳥取大山オフィス
鳥取県西伯郡大山町住吉921
0858-58-2318
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