FUTURE IS NOW

時代の目利きたちの“今”から未来を探るメディア

FUTURE IS NOW

“贈り物”の未来を、お花屋さんと一緒に考えました。

さまざまなジャンルで活躍する“目利き”の方々に投げかけた質問から、未来の定番となる種を探し出している「F.I.N.」。「人に贈りたい、きれいなものは何ですか?」という質問に、〈THE LITTLE SHOP OF FLOWERS〉の壱岐ゆかりさんや、漫画家の桜沢エリカさんなど多くの方が「花」だと答えてくれました。今はまだ、特別な日に贈るものという印象のある花ですが、少し先の未来ではもっと当たり前に、贈り物の定番になっているのかもしれません。今回は、花の未来を提案し続けているお花屋さんと一緒に、花の未来について考えていきます。

 

(写真:鈴木慎平、清水慶一)

 
 
花を贈ることが“特別”な今。

皆さんは、どんな時に人に花を贈りますか?誕生日、記念日、プロポーズなど、年に一度、または一生に一度の大切で特別な日という方が多いのではないでしょうか? 東京で個性を生かした花屋を営み、日々花の今と未来を見つめているお花屋さんたちに、「花を贈る」ことの未来や希望について、お話を伺いました。

 
 

〈THE LITTLE SHOP OF FLOWERS〉
壱岐ゆかりさんと考える、花の未来。

原宿・神宮前にある路地裏の花屋〈THE LITTLE SHOP OF FLOWERS〉を営む壱岐ゆかりさん。昨年9月には原宿・キャットストリート店に2号店をオープンしました。1周年を迎えたキャットストリート店で、壱岐さんの考える未来の花について、お話を伺いました。

特別だけど当たり前な花屋であり続けるために。

花が持つ色の深みと、グラデーションが美しい〈THE LITTLE SHOP OF FLOWERS〉の店内。壱岐さんの世界観や、花屋としての姿勢が感じられます。「可愛らしい、すてき、かっこいい。それだけじゃない雰囲気があるお花屋さんだと言ってもらったことがあり、すごくしっくりきました。自分自身の趣味嗜好として、シンプルで性別を問わない雰囲気が好きなので、そこを感じ取ってもらえたら嬉しいですね」。

壱岐さんは流行や一時的なかっこよさだけではない、誰かにとって信頼できるお花屋さんであり続けることが理想だと語ります。「お客さんの希望に100%応えるのが前提で、そこに私たちなりの提案や“らしさ”をさりげなく加えたい。年齢や性別、何用のお花かという最低限の情報をいただいたら、そこから自分の中で想像して、色合いやラッピングをご提案しています。時代や周囲の変化に流されることなく続けていけば、お任せしたいと思ってもらえる特別で当たり前な花屋になると信じています」。

「きれいとは何か?」を自分なりに感じる心地良さ。

「何気なく、そこに咲き誇っている草花の存在に気づくことができて、愛でたいと思う。そんな気持ちの余裕を持てるって気持ちいいことなんだと知ってほしいです。日本にしかない四季を感じる楽しさや、それを生活、さらには食に取り入れるといった循環した考え方に興味が持てたら、それって素晴らしいことだと思うんです」。壱岐さんの願いは、草花によって時期を楽しむ気持ちと、その儚さを感じる自分に出会うまでの “自分探し”を楽しんでもらうこと。「気持ちいい、心地いい、きれいとは何か?の定義を、自分で感じ、自分なりに開花させる楽しみを知っていく人生っていいですよね」。

吸収力の高い、若い人たちに与える影響力とは。

キャットストリート店には、若い男性のお客さんも多いといいます。「このキャットストリート店には、すごく未来を感じています。10代や20代のお客さんも多く、特に男の子が、お母さんへのお花をオーダーすることも少なくないんです。『母はこういう色が好きだから、こんな色合いで』と、まっすぐに伝えてくれるのを見ると感動します。お母さんに会ってみたい!と思ってしまうくらいです(笑)。吸収力の高い時期の若い方々も多いので、私たちが彼らから影響を受けることもあり、同時に彼らが数年後どんな人間になるのか、そこでこの花が与える影響について真剣に考えて提供するようになりました」。

今後の目標について、壱岐さんは「こうしてお店に立ってお客さんと過ごしていると、ライブ感があってすごく楽しいです。これからは少しずつお店に立つ時間を増やしたいなと思っています。お客さんの様子、スタッフの思いを現場で確認しながら、当たり前のことを大切にしていきたいです」と話してくれました。

【壱岐さんが考える、未来の花の贈り物】

「キャットストリートにいる若い世代の方に、家に飾ったり、人に贈ったりしてほしいブーケです。野花、雑草、季節の小花など、その時期に道端に咲いていそうな、ドライフラワーになりにくい花をあえて入れました。今日は秋の花、コスモスを入れています。儚く終わる花の一瞬を楽しんでほしい、そして数年後大人になった時、そんな花の美しさをまた誰かに伝えられる人になってくれたら、という願いを込めました」。

THE LITTLE SHOP OF FLOWERS

(写真・キャットストリート店)

〒150-0001 東京都渋谷区神宮前5-17-9 1F

TEL:03-6427-6003

営業時間:11:00〜19:00

定休日:木曜日

(アトリエ店)

〒150-0001 東京都渋谷区神宮前6-31-10

TEL:03-5778-3052

営業時間:11:00〜19:00

定休日:木曜日

 
 
〈AFRIKA ROSE〉
萩生田愛さんと考える、花の未来。

アフリカで出会った、力強いバラの魅力。

東京・広尾にある〈アフリカローズ〉は、アフリカのケニアで栽培されたバラを扱う専門店です。代表の萩生田さんは、2011年に単身でケニアのナイロビに滞在した際、力強く咲くバラと出会いました。「偶然立ち寄ったナイロビのショッピングモールの脇に、リアカーと汚れたバケツが並んだ簡易的な花売り場がありました。そこで、バケツの中で咲き乱れるバラがとても大きくて、色鮮やかなグラデーションだったので驚きました」。

10本のバラを買って帰り、ダイニングに活けた萩生田さん。「3日くらいは咲いていてくれるかな、と思っていたら、なんと3週間も咲き続けていたんです。そこから、アフリカで育った力強く生命力に溢れたバラの魅力に引き込まれていきました」。萩生田さんがアフリカの女性に感じていた、女性らしいしなやかさやたくましさが、このバラと重なって見えたといいます。

「おまかせで」の裏にある、こだわりを探る。

アフリカのバラの魅力に魅せられた萩生田さんは、帰国後フェアトレードによるバラの輸入を始めました。それからしばらくして、2015年にお店をオープン。意外にも、お客さんの4割は男性だといいます。

「男性のお客様が奥様へのプレゼントを購入される時、よく分からないから適当に作ってくれ、と言われることがあります。でも、よく話を聞いてみると、奥様の雰囲気や好きな色など、実はよく見ていて、よく知っているんですよね。それをしっかり聞いて、理想の花束をお客様と一緒に作っていきます」。おまかせでと言う方でも、最終的にはこだわりを見せることが多いと萩生田さんは笑顔で語ります。

受け取る側も、素直に喜びを表現してほしい。

突然花を贈られて、どうしたんだろう?何かあったのかな?と戸惑ってしまうこともありますよね。萩生田さんは、受け取る側も、素直に喜ぶことが大切だと教えてくれました。「男性って、女性のそういった戸惑いの反応を拒否と捉えてしまうらしいんです。せっかく選んだ花が喜ばれなかったことがトラウマになって、もう二度と花を買わないと思ってしまう。なので女性側も、男性が選んでくれたことに少しオーバーなくらい喜びを表現してほしいですね」。

花を贈ることが当たり前になる世の中。

「ヨーロッパでは、毎週金曜日になるとお花屋さんが男性客で賑わうんだそうです。何の理由もないけれど、週末を楽しむために花が欠かせないとか、一週間仕事を頑張った自分、家族への贈り物とか。そんな風に、日常の何気ない風景にお花が欠かせないものになっていったらいいですよね。相手のために時間を割いて、花の色やラッピングを考える。それだけでとっても素敵なプレゼントです。選ぶ側も楽しんで、そして受け取る側も素直に喜ぶこと。そうすればお花を贈ることがもっと当たり前になり、みんなが幸せを感じる瞬間がもっと増えていくのではないでしょうか」。

【萩生田さんが考える、未来の花の贈り物】

「40~50代くらいの男性が、何気ない日常で奥様にプレゼントするバラのブーケです。過去に花を贈って、喜んでもらえなかったトラウマから贈るのをやめてしまった人たちって、意外と多いんだということに気づきました。そんな方たちがもう一度花を贈ろうというきっかけになるブーケになればいいなぁと思って作りました」。

AFRIKA ROSE

〒150-0012 東京都渋谷区広尾5-18-8

TEL:03-6450-3339

FAX:03-6450-3303

営業時間:11:00〜20:00

定休日:木曜日

 
 
 
〈小路苑〉
吉田耕治さんと考える、花の未来。

枯れていく過程を楽しむことができる草花たち。

東京・神楽坂の閑静な住宅街の中に、ひっそりと佇む〈小路苑〉。一歩足を踏み入れると、緑の香りに包まれて、まるで森の中にいるかのよう。ここには店主の吉田さんの好みが溢れています。「実や枝、葉っぱが好きなんです。枯れていく過程や枯れてからも美しいもの、深い色や、中間色のような色のものが多いですね。あとは同じ種類でも、一つひとつ表情が違うような珍しいものを見つけると、つい仕入れてしまいます」。

アシスタント時代の経験から、花屋へ。

かつてはスタイリストのアシスタントをしていたという吉田さん。その頃から撮影の小道具として、またお店に飾るものとしてお花屋さんに行くことが多かったといいます。「『店のこの辺にちょっと花を置きたいから、買ってきて』と言われて花屋に行き、自分なりにこの花とこの緑を組み合わせよう、と考えていました。それが少しずつ楽しくなり、その後花屋に転職しました」。修行を積んだ吉田さんが、神楽坂にお店を構えたのが2000年のこと。幅広い年齢のお客さんが来ますが、特にアパレル関係の方と、男性客が多いと教えてくれました。

こだわりの強い、男性客からのオーダーも。

元々は印刷関連の会社の古い倉庫だったというお店は、花屋というより植物園のような雰囲気。たしかに男性客でも足を運びやすそうです。吉田さんによると、男性客の中には、贈り物を買う人はもちろん、自分の部屋に飾る人、そしてウェディングのブーケを選びに来る人もいます。「今は新郎が結婚式をプロデュースすることも増えているんでしょうか。新郎の方が、会場の雰囲気や新婦のドレスのイメージを伝えてくれて、ブーケを作ったこともありました」。結婚式のブーケのオーダーでは、作り込まないシンプルなものが多いんだとか。何種類もの植物を組み合わせて、無造作に集めたようなブーケが、最近の流行とマッチしているのかもしれません。

「お花屋さんの数も増えて、個性的でバリエーションのあるお店が多くなりましたよね。だから、お客さんが、こういう花ならこの店、というように選択できるようになってきたのではないでしょうか。いろんな花屋に足を運んでみて、自分の好みの店を探すのも楽しいと思いますよ」。

花の存在が身近になってきたと感じる。

「最近は、少ない本数でも気軽に買ってくれる人が増えたような気がします。日常の中に花があるというのが、身近になってきたということなんでしょうか。また、この近くには素敵な焼き物のお店や道具屋さんも多く、そこで器を買ったはいいけどどんな花が合うかわからない、とご相談を受けることもあります。例えば器と花をセットにしてプレゼントする、というのもすてきですよね」。

【吉田さんが考える、未来の花の贈り物】

「若い男性が器を買い、それに合う花がほしいというオーダーを想定して選びました。男性の部屋にあっても不自然にならないシンプルな色合いです。最近は器に興味を持つ人も増えてきているので、もし気に入った器を手に入れたら、それを持ってお店に来ていただければ、似合う花を選ばせていただきますよ」。

小路苑

〒162-0817 東京都新宿区赤城元町3-4

TEL:03-5261-0229

営業時間:13:00~20:00

定休日:不定休

 

 
 
 
塚田有一さんと考える、
花を贈ることの未来。

花の未来を考える時に、ぜひ話を聞いてみたいと思ったのは、塚田有一さん。〈温室〉の代表であり、ガーデンプランナー、フラワーアーティスト、グリーンディレクターとして花や緑、植物全般に関わるあれこれを職業にしている塚田さんは、花の未来をどのように感じているのでしょうか。お花屋さんではない、塚田さんならではの視点から、未来を探ってみます。

———塚田さんが植物に興味を持ったきっかけを教えてください。

大学へ入学した年に「リゾート法」が施行され、列島中で乱開発が横行しました。東京の大学にいた僕は、帰省するたびに自分が遊んでいた自然がなくなっていくことに寂しさを感じていたんです。木漏れ陽がきれいな雑木林が切り開かれ、ゴルフ場になってしまったり、高速道路が出来て風景が様変わりしました。その頃から環境問題や、この風土が育んだはずの美意識への関心が高くなっていった気がします。「なくしてはいけないものがある」という思いを強く抱いたのを覚えています。

草花に目を留めることで、時間の流れを感じられる。

———昔から日本にあるものを大切にしようという気持ちからなんですね。

そうですね。自然との紐帯を再び結び直したいという思いはあります。お仕事をくださる方も、慌ただしい日々で少しでも植物に触れたいという方が多いです。花を活けるとか、庭を作って季節の変化や道行きを楽しむとか、今でも型や形として残っているものは、この風土で生きてきた人々が母なる自然に近づくための豊かな知恵が残されています。春夏秋冬には「あわい」(時間的な間、中間)の時もあり、移ろいの早い日本。草花に目を留めることで、リッチでフラジャイルな“今”という時間の大切さに気付くはずです。

———今日インタビューさせていただいている「世田谷ものづくり学校」では、普段はワークショップを行われているんですよね?

旧暦に沿ったお節供のワークショップや、ひとつとして同じ結果にならない手仕事や、収穫を楽しむ庭仕事をしています。節供の謂れなどを座学で知り、その上でワークをしていただきます。「学校園」というワークショップの時に限っていますが、この施設の周りに育っている草花を摘んで、花を束ねたり、活けたりすることができます。花をはさみで切るということは都心ではなかなかできませんよね。自分で摘むことで大切なものをいただくという感覚が育まれると思います。身体を通して、香りや質感や変化を触知すれば、その思いが花に乗っていくのです。

自分が思う「きれい」「好き」を、相手に贈ることの尊さ。

———花を摘む、束ねる、そしてそれを人に贈るということは、とても思いがこもった行為なんですね。

自分がきれいだと感じた花を自分の手で摘み取るということ、皆さん一度はしたことがあるはず。帰り道に母親に花を摘んで帰るような、そんな感覚が取り戻されたらいいですよね。花を贈るということは、美しくてエネルギーのあるものを贈ることです。送り手の想いそのものだとも言えますよね。悲しい時も嬉しい時も、ふさわしい花があり、それは心の形代として届けられます。「きれいだ」と自分が感じたものを相手に贈るということって、すごく尊いことだと思います。大事なことは、暮らしの近くに花があることの再発見です。日本は地球上でも稀な緑豊かな国です。季節の巡り、それを告げる花に関心を持つ人が増えれば、それは文化としてこれからもずっとさらに豊かに残っていくはずです。

【塚田さんが考える、未来の花の贈り物】

大人になってからも、子供が母親に花を摘んで帰るような感覚で、自分が「美しい」と思ったものを、好きな人に贈るということが日常の中で当たり前にある世の中っていいですよね。これは、「世田谷ものづくり学校」の周りに咲いている草花を中心に、お花屋さんで買った花を合わせました。今は、個性的ですてきなお花屋さんもたくさんあるので、こうやって野のものと売っているものを組み合わせることで、両方の長所を生かした世界にひとつだけのブーケが生まれます。草花の感触や香り、その一つひとつの違いを感じながら、ぜひ自分の手で花を束ねて人に贈ってみてください。花を贈ることを、堅苦しく決まりのあることだと考えずに、自分の“好き”を形にする行為だと思うと楽しいはず。そういう環境ができていったら、花だけでなく、自分の“好き”を自由に表現できる世の中になっていくと思います。技術や型は自由のためにあります。日本はとても植物が豊かな国。多様な風土があり、そこから情緒や多様な文化は生まれ育ってきました。身近な植物はそのことを常に教えてくれます。いつの間にか絶滅している植物や虫、生き物たちが多くなりました。なくなってしまったら、美しさや、それを見て私たちが感じる思いも消えてしまいます。食い止めることができるのは、その恩恵を身体でそれぞれが知り、それぞれの歳時記を持つことではないかと思っています。

温室

〒101-0065 東京都千代田区西神田 2-4-1 東方学会本館3階33-2号室

作庭から花活け、オフィスのgreeningなど空間編集を手がける。温室にてトークや演奏会、さまざまな講師を招いて「TERRAIN VAGUE(都市の空き地)」を定期的に開催。赤坂氷川神社の花活け教室「はなのみち」の講師も務める。IID世田谷ものづくり学校で開催している「学校園」は、学級菜園や敷地内の緑を活用したプロジェクト。自然と暮らしを巡るワークショップや展示を企画している。

※温室は、予約制です。ウェブサイトよりお問い合わせください。

(取材協力:IID 世田谷ものづくり学校 〒154-0001 東京都世田谷区池尻2-4-5)

元になった回答

その人のイメージにあった花

濃淡入り混じったピンクのブーケ。壱岐さんの「好き」と「こだわり」が詰まっている。

花屋を始めるずっと前から、人へのプレゼントは何かとお花のセットという意識があったように思います。私がブーケを作る時に大切にしているのは、色の奥深さです。赤は赤でも1、2種類の赤ではなく、赤だけで10種類くらい集めたい。例えば、季節のものでシャクヤクのピンクをメインにブーケを作ろうと思ったら、それに合わせるために数種類のピンクを集めて、さらにピンクと合う緑を数種類集めます。そうすると、単純にピンクと緑の2色で作るよりも奥深いブーケになるんです。お店も、12色のクレヨンじゃなくて、500色のクレヨンのように色の数が多いお花屋さんでいようね、といつもみんなと話しています。

インテリアショップ、ファッションプレスなどを経て、2010年に週末だけのフラワーショップを東京・代々木上原にオープン。2013年に現在の東京都・原宿に移転。日々の小さな贈り物の提案から展示会やパーティ、結婚式の装飾・演出などを独自のスタイルで展開。2016年3月に、花屋としての6年間を写真でまとめたZINE『THE LITTLE SHOP OF FLOWERS』を自費出版で制作。

http://www.thelittleshopofflowers.jp