器修理に来たお客さん
対面での金継ぎの受付に、30代くらいの若い女性が湯呑みや花器を数点持ち込まれました。その中のひとつ、バラバラに割れた湯呑みだけは、迷いながらも1番高価な金での仕上げを選ばれたので、気になって「大切なものですか?」と聞いたところ、「生前、兄が愛用していた湯呑みで、葬儀の翌日に母がうっかり割ってしまって……」と話してくれました。その様子がずっと心に残ったまま繕いを終えたところ、後日その女性からメールを頂きました。大変ショックを受けていた母に「また使えるように直してもらうから泣かないで」と言い聞かせ、ご自身は決して人前では涙を流せなかったこと。依頼した時に私の質問に不覚にも泣きそうになったこと。再生された器を受け取った時「叶わぬことですが、兄もこんなふうに誰かが元通りにしてくれればいいのに……」と涙が出そうになったことなどが書かれていて、私も思わず涙してしまいました。日々ひとりで器の繕いをしていると、壊れた器を通して人と繋がっている気がします。お預かりする器は、どれもこれもご依頼主がお金をかけてまでも直したいと思うほどに、思い入れのあるものです。この仕事は決して合理的や事務的には済ませられないなと、改めて思いました。
1968年千葉県生まれ。多摩美術大学でガラス工芸と陶芸を学ぶ。2011年の震災をきっかけに、モノを作る側から直す側へと転身。以降国産の漆を使った日本古来の「金継ぎ」というリペア技術で、陶器やガラスの食器・置物などさまざまなワレモノの修理を手がけ、その仕上げの美しさには定評がある。現在はホームページからの受注に加え、2ヶ月に一度、東京都世田谷区の<D&DEPARTMENT TOKYO>にて金継ぎの公開受付も定期開催。著書に「繕うワザを磨く 金継ぎ上達レッスン」(メイツ出版)がある。
https://www.monotsugi.com
photoby:masacova!