地元の見る目を変えた47人。
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2018.08.28
未来を仕掛ける日本全国の47人。
毎週、F.I.N.編集部が1都道府県ずつ巡って、未来は世の中の定番になるかもしれない“もの”や“こと”、そしてそれを仕掛ける“人”を見つけていきます。今回向かったのは、富山県の氷見市。セレクトショップ〈archipelago〉店主の小菅庸喜さんが教えてくれた、〈SAYS FARM〉ディレクターの飯田健児さんをご紹介します。
この連載企画にご登場いただく47名は、F.I.N.編集部が信頼する、各地にネットワークを持つ方々にご推薦いただき、選出しています。
ワイナリーを軸にした場づくりで、氷見の土地に新しい息吹をもたらす人。
富山湾を見下ろす小高い丘で、ワイナリーを中心に、レストランやギャラリー、ゲストハウスなどを営む〈SAYS FARM〉。この土地で古くから続く魚問屋「釣屋」が始めたこの「泊まれるワイナリー」は、2011年のオープン以来、長らく漁業のイメージが強かった氷見の新しい顔として、今、多くの人を惹きつけています。推薦者の小菅さんは、「空間やパッケージデザイン、サービスなど、総合的にレベルが高く、〈SAYS DAYS〉というぶどうの収穫祭も企画されるなど、富山で今一番気になる場所です。宿泊までをカバーしたデザインと観光と食、サービス。そして、土地に新しいイメージの定着を進めたところに未来を感じます」と話してくださいました。この〈SAYS FARM〉で、マネジメントから企画、ブランディングなど幅広い業務に携わる、ディレクターの飯田さんにお話を聞いてみました。
F.I.N.編集部
飯田さん、こんにちは。
飯田さん
はじめまして。
F.I.N.編集部
どうぞよろしくお願いします。まずは、〈SAYSFARM〉のある富山県氷見市はどんな土地なんですか?なんといっても寒ブリが有名ですよね。
飯田さん
たしかに寒ブリが有名ですが、一年を通して豊富な海の幸が楽しめる土地なんですよ。山手では畜産業も行われていて、氷見牛というブランド牛もあります。一方で、最近では、古い建物を改装してクラフトビールのお店を開業する方がいたり、「Airbnb」ようなスタイルで民泊を始めるご夫婦や陶芸の作家さんも移住してきたりなど、観光や食をキーワードに現代的なセンスが街に入り始めていると思います。
F.I.N.編集部
豊かな食だけでなく、新しく根付きつつある文化も注目なんですね。そもそも、〈SAYS FARM〉はどんなきっかけで始まったんですか?
飯田さん
このプロジェクトは、氷見で古くから続く魚問屋(鮮魚仲買人)「釣屋」の次男・釣誠二さんが中心になって始めたものです。氷見にはあまり観光資源と呼べるものが無く、何か人を呼べるものを、と選んだものがワイナリーであったと記憶しています。結局、彼はオープンを待たずに病で亡くなられて、その後を兄の釣吉範さんが引き継ぐ形でプロジェクトを進めています。
F.I.N.編集部
釣さんの、地元への熱い想いが発端だったんですね。コンセプトの「つなげる、つなげていく」にはどんな思いを込められているんですか?
飯田さん
農業というのは永続的なものであり、ずっと続けられて来た人の営みの一部です。数年前、私たちは、耕作放棄地だった丘に手を入れ、地元を想う様々な人と共にブドウの木を植え、〈SAYS FARM〉を始めました。ブドウの木というのは、樹齢が長く、日本には樹齢100年を超えるものも現存しているほど。きっと私たちがいなくなった100年先にも、この丘の上にはまだブドウの木があり、その傍らにはこの土地に暮らす若者がいるように思えますし、そうしていかなければいけないと思っています。この丘の上に生まれた”価値”を、誠二さんから託されたように、次の世代に渡していきたい。その想いを消さないように、彼がこの丘に見た夢を、ロゴとしてヴィジュアル化し、「つなげる、つなげていく」という言葉をコンセプトとしました。
F.I.N.編集部
釣さんの思いを未来に受け継いでいくという想いが表された、素敵な言葉です。飯田さんは、現在〈SAYS FARM〉の中でどんなお仕事をされているんですか?
飯田さん
私の仕事は、ワイナリー全体のマネジメントと企画、あとは何でも屋です(笑)。プロジェクトの立ち上げの時には、まず自分で鉄板と鉄の棒を買ってきて、溶接し、色を塗って看板を作り、それから果実酒の醸造免許の取得に向けて勉強し、たくさんの書類を作りました。オープン後も、ショップやギャラリーの什器を探しに、廃校に赴いたり、そこで貰えたものに色を塗ったり、商品セレクトしたり、webサイトの写真を撮ったり、文章を作ったり、デザインの方向性を決めたり、自分でパッケージのデザインをしたり……。時には畑に出ることもありますし、ワインの仕込みも手伝います。10人ほどの少人数で運営している小さい農園なので、足りない部分を補って、色々なことをしないといけないんです。
F.I.N.編集部
……そこまで幅広いとは驚きです。まさに〈SAYS FARM〉の核となっておられるかと思いますが、どんな経緯で〈SAYS FARM〉で働かれることになったんでしょうか?
飯田さん
もともとは両親が富山出身なのですが、私が生まれる前に大阪に転勤し、私は大阪で生まれ育ちました。そうした中、父は兼業農家の長男だったので、大阪での仕事の定年を機にUターンをして富山に戻ったんです。いずれは誰かが家業を継がないといけないということもあり、私も30歳を過ぎた頃、移住することを決めました。
F.I.N.編集部
なるほど。
飯田さん
富山に移住した頃、〈SAYS FARM〉立ち上げのプロジェクトに参画していたデザインオフィス「五割一分」代表の角谷茂氏と出会いました。私自身、昔から、デザインや写真、器や家具など、ライフスタイル全般に興味を持っていて、自身の今まで撮ってきた写真を見せたり、さまざまなお話したりする中で、このワイナリー立ち上げのプロジェクトマネージャーに誘っていただいたんです。亡くなられた前オーナーとも気が合い、現在の立場として仕事をしています。とはいえ、私はもともと、土木系の技術士をしており、測量して図面を描いたり、品質や工程・安全管理を行ったりしながら一つの設計図を元に決められた工期の中でより品質の高いもの作るという、管理系の仕事をしてきました。なので、プロジェクトの立ち上げに向けては、組織作りやさまざまなタスクなど、マネジメントの部分でも関わっています。
F.I.N.編集部
マネジメントとクリエイティブ。両面で貢献されているんですね。空間やパッケージなどの、様々なデザインにも気を配られているとお見受けしますが、デザインの重要性については、どうお考えですか?
飯田さん
食品に関して、ワインのエチケット(ラベル)や商品のパッケージデザインは、やはり手に取るきっかけになる部分だと思います。そして、そのデザインや素材、手触りなどはいずれも、そのブランドが持つイメージや思想を表現するものだと思っています。我々は、本質的でごくシンプルな農業としてのワイン造りを目指しているので、ミニマルに、必要でない全ての情報を削ぎ落としたデザインを心がけました。
F.I.N.編集部
確かに、すごくシンプルで美しいデザインです。
飯田さん
でも当初、有名なワインジャーナリストの方から、「こんなエチケットはやめなさい。試作品のよう……」なんて言われたこともありました。従来の日本のワインのエチケットは、割と装飾的なものが多かったので、異質でふざけているように見えたのかもしれません。もちろん変えることはしませんでしたが、ワインが売れていない時代でしたので、そのような立場の方から言われると少し不安にはなりましたけど……(笑)。
F.I.N.編集部
そうだったんですね。貫いたもの勝ちですね。最後に、飯田さんが〈SAYS FARM〉を通して実現したいことを教えてください。
飯田さん
難しい質問ですね。ここで働くモチベーションは、自己実現のためではないのかもしれません。〈SAYS FARM〉の立ち上げに向けては1年間、創業者の釣誠二さんと、今からできるまだ名もない農園の話をたくさんしました。亡くなるまでの最後の数ヶ月は、連日病室に通い、衰えゆく命の儚さに向き合いました。これからの希望と、どうしてあげることもできない無力さの中で、帰りの車で落ち込んだりしましたね。それも今では懐かしい思い出です。生前彼は、「この農園は、お金を儲けることではなく、また来たいと思ってもらえる場所にできるかどうかが大切。そして次に来た時には、また少し何かが良くなっている。そんな風に思って何度でも来たいと思ってもらえることが、この農園の成功だ」ということを言っていました。月並みかもしれませんが、それを少しずつ、着実に実現させていくことが自分の使命だと思っています。このワインが育まれる風土を、一日を通して感じていただけるようにと、宿泊ができるようにしたり、この土地で造られるワインを氷見の食文化として定着させるため、地元の食材を使ったワインに合うようなお料理の教室を行ったりしています。氷見のワインが、文化としてこの街に根づいていけばいいですね。
F.I.N.編集部
〈SAYS FARM〉は、発端となった釣さんの強い想い、そして飯田さん、スタッフの皆さんの熱い志ゆえに、多くの人を惹きつける場となったんですね。本日はありがとうございました。
〈SAYS FARM〉
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