地元の見る目を変えた47人。
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2018.05.15
未来を仕掛ける日本全国の47人。
毎週、F.I.N.編集部が1都道府県ずつ巡って、未来は世の中の定番になるかもしれない“もの”や“こと”、そしてそれを仕掛ける“人”を見つけていきます。今回向かったのは、宮城県仙台市。イクス代表の永田宙郷さんが教えてくれた、アートディレクターの鹿野護さんをご紹介します。
この連載企画にご登場いただく47名は、F.I.N.編集部が信頼する、各地にネットワークを持つ方々にご推薦いただき、選出しています。
地域に軸足を置いたメディアデザインで、“美しい”課題解決を模索する人。
生まれ故郷の宮城県で、メディアデザインを軸に、社会の課題解決や価値創造を図るべく、様々な表現活動を続ける鹿野さん。日本テレビ「NEWS ZERO」のブランドデザインや、NHK大河ドラマ「八重の桜」のタイトルバック映像制作など、ビジュアルデザインの分野を牽引するクリエイティブ集団・WOWの創設メンバーとして活躍するとともに、現在は宮城大学で教鞭をとり、デザイン教育の研究に力を入れています。推薦してくれた永田さんは、「僕は鹿野さんに対して、いつも穏やかで、ひとつ上の高さから俯瞰し、クリエイティブが世の中にどう力になれるのかを考えている人、というイメージを持っています。きっと、テクノロジーが単なる経済の効率化や生活の現代化のためではなく、人の創造力の喚起と実現のために存在するのだと教えてくれる人だと思います」と話してくれました。鹿野さんご本人にお話を聞いてみましょう。
F.I.N.編集部
鹿野さん、どうもこんにちは。
鹿野さん
こんにちは。
F.I.N.編集部
まずは、鹿野さんの今のお仕事の領域について教えていただけますか?
鹿野さん
ビジュアルデザインスタジオのWOWにて20年ほどメディア表現を行なってきた経験を生かして、デザイン教育分野の領域を中心に活動をしています。現在は宮城大学の価値想像デザイン学類に所属しており、学生たちとともに様々な教育や研究を進めています。例えば、体験型デジタルインスタレーションの企画展を通じて地域交流の促進を模索したり、地元の病院を対象として入院児を支援するためのコミュニケーションデバイスのデザインを産学連携で取り組んだりしています。
F.I.N.編集部
今はデザイン教育の分野に特に力を入れられておられるのですね。
鹿野さん
はい。デザインをデザイン領域からだけで学ぶのではなく、多様な文化や歴史の流れの中で学んで欲しいと考えているため、大学における日々の講義や演習の準備では、内容の構成にはいつも頭を悩ませています。また基本的にすべてオリジナルの教材を作っています。インタラクティブなデジタル教材や、理解を深めるための映像などを作ったりもしています。
F.I.N.編集部
メディアデザインを学ぶ学生の傾向は、宮城県とその他の地域とでは異なるところがあるのでしょうか?
鹿野さん
どこにいても最新情報が入手できる時代なので、傾向が大きく異なることはないと思います。ただ、宮城県近辺の学生たちは小さな頃に大きな震災を体験しています。このことは何かしら、思考や作るものに影響するのではないかと思います。震災を間近で経験したからこそ考えられること、作れることがあるはずです。
F.I.N.編集部
そうなのですね。他には何か力を入れていることはありますか?
鹿野さん
「Breakfast」というプレゼンツールの開発です。これは講義やプレゼンテーションの準備が面倒と感じたところからスタートしたプロジェクトで、これまでのパワーポイントのスライド型発表ではなく、もっと効率的に準備を進めつつ、画面という枠組みに捉われない発表ができるものを目指してWOWとともに作っています。現在ベータバージョンを公開中で、年内には正式版をリリースできるかと思います。
F.I.N.編集部
プレゼンの概念がガラッと変わりそうですね。WOWでのご活動も含め、対企業、教育、研究など、様々な分野のお仕事に携わられているかと思いますが、その向き合い方について、何か一貫している点はあるんでしょうか。
鹿野さん
私に求められていることの中でも重要なのは、皆さんがぼんやりと思い描いていたことを、魅力的なビジョンとして具体化することだと考えています。ですから、どんなプロジェクトでも最初に、問題やニーズを調査し、それらを俯瞰して捉えられるような状況を作り出すようにしています。そこから、必要な要素を組み立てて、最適な具体化の道筋を見出していくのです。その際に一貫して重要視しているのは、明快かつ魅力的な表現を用いること。そして言葉だけに頼らず、ビジュアルや音など様々な表現を組み合わせて、進むべき「世界」を描くようにしています。「そう、まさにそんな感じ」という感想をもらえることが第一目標になりますし、「そうか、こういうことだったのか」と新たな発見をもたらせれば、そのプロジェクトは成功に向かって動き出していると言えます。
F.I.N.編集部
なるほど。東京と関わりながらお仕事をされることが多いと思いますが、宮城を拠点に活動を続けているのには、何か理由があるのですか?
鹿野さん
地域だからこそ生まれる表現やデザインがあるのではないかと考えています。様々な工芸や文化が地域から生まれるように、風土から生まれるメディア表現があると信じているんです。それを実現するために、地域に軸足を置いた活動をするようになりました。宮城が拠点となっているのは、生まれた場所だから。自然と都市がちょうど良いバランスで共存している場ではないかと思います。
F.I.N.編集部
自然からインスピレーションを受けることもあるんでしょうか?
鹿野さん
自然現象と歴史からヒントを得ることは多いと思います。一方で、家族や子供達の素朴な疑問などから、大きな好奇心に辿り着いたりします。実際、子供が言った一言がきっかけとなって生まれた作品もありますよ。息子がまだ4歳のとき「なぜ風は見えないのに、木を押して揺らせるの?」と疑問に思っていたことをきっかけに、「流線ノート」という作品を作成しました。(http://www.zugakousaku.com/stream)
F.I.N.編集部
何気ない日常からヒントを得ることがあるんですね。制作の際には、テーマ音楽を設定されているとも伺いました。
鹿野さん
そうなんですよ。音楽を聞きながら考えることによって、明快に考えるべきものや作るべきものが、無意識に導き出されるような感覚を持っています。捉えどころのない妄想や印象でも、音楽があることではっきりとした形になって見えてくるのです。なので、音楽とは全く関係のないプロジェクトだとしても、まずは選曲から始めることもあります。
F.I.N.編集部
鹿野さんにとって“作ること”そして“表現すること”はどんな意味を持っていますか?
鹿野さん
デザインワークにおいては、作ることは具体化と最適化の繰り返しです。その繰り返しから、社会にある問題を解決したり、価値を創造するための機能を生み出したりすることなんです。自主制作においては、作ることは、好奇心を満たしていくことにほかなりません。不思議だなと感じたことや、疑問に思ったことを調べていく過程が、自然に表現となっていく。これは表現と観察が一体化したプロセスであるとも言えるかもしれません。ですから作品が完成すると感じた時は、好奇心が満たされ、自分にとっての観察の一区切りの証のようなものなのです。しかしながら、作りかけの作品がたくさんある状況なので、なかなか区切りはつけられないなというのを実感しています。
F.I.N.編集部
最後に、未来に向けての目標を教えてください。
鹿野さん
個人的な目標としては、自分自身が好奇心を持ち続けられ、家族とともに健康であること。この基本は外せないと思います。また、社会的な役割としての目標は、やはりデザインという武器を携えた若者たちを、社会に数多く送り出すこと。これはデザイナーを養成したいと言うことに限らず、デザインを活用できる様々な人材が社会で活躍できるような状況を作りたいということです。これからは、AIをはじめとする非常に高度なテクノロジーが生活の中に浸透していきます。これらのテクノロジーを安易に受け入れ、信じすぎて思考停止するのではなく、常に疑問と好奇心を持って、美しく問題を解決しうる若者たちを地域に増やすことが目標ですね。
F.I.N.編集部
鹿野さんから教えを得た“美しく問題を解決しうる若者”たちが活躍する未来が楽しみです。ありがとうございました。
編集後記
インフラが無くなった実体験は、何かを生み出す原動力になると聞いたことがあります。世界 を変えるといわれるWOWの創業メンバーである鹿野さんが、企業の枠組みを離れ、地域や若者たちが、世の中を変える新しい力になるだろうと、教育に力を入れておられるのには、頭が下がると同時に、東北をはじめとした地域の未来を感じます。
(未来定番研究所 安達)
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