2018.09.21

「小さい町だからできた」。長野小布施の図書館と町のいい関係

街の人の交流拠点になったり、空間づくりにこだわっていたり、単なる公共施設に留まらない図書館が増えている現在。なかでも、長野県小布施町にある「まちとしょテラソ」は、おしゃべりも飲食もOK、町と連動した企画も頻繁に行われるという珍しい図書館です。町の人に開かれた存在となっている「まちとしょテラソ」と町のいい関係を、小布施町教育委員会 教育次長の三輪茂さんに伺いました。

撮影:米山典子

失敗したら戻ればいい。小さな町だからできること

長野県で一番面積が小さく、町の中心部から半径2kmほどの範囲にすべての集落が収まる極めてコンパクトな町、小布施。そんな小さな町に「まちとしょテラソ」が誕生したのは2009年のこと。町の人の声が広く反映された図書館づくりが実現されていったのだといいます。

「元々、図書館は役場の3階にあったんです。エレベーターもなく狭い空間ということから、町民の方からは新しい図書館をという声が寄せられていて。それから図書館をつくるにあたって、町の人みなさんが必要とする図書館を話し合う場を設けたんです。そうした中で浮かんできたのが“学び”“子育て”“交流”“情報発信”。これらをキーワードに新たな図書館を作ることになりました。町の人の声を反映したといえば、建築もそう。広いワンフロアの図書館にするため、桜の木を伐採する話になっていたんですが、町の人から残してほしいという声があったので設計そのものを変えたりして。小さな町だからこそできた、そういうことがいっぱいあります」。

公共の図書館の館長といえば、役場のOG・OBや学校の校長先生などが就任することが多いもの。しかし、ここ『まちとしょテラソ』の歴代の館長は、公募した映像作家や編集者たち。

 

「新しい図書館には、新たらしい発想が必要でした。僕たち行政の人間ではどうしても堅い考えになってしまう。だから全国から館長を募集して力を借りることにしたんです。それで誕生したのが、毎月テーマを決めてスタッフが本をセレクトする“テラソ百選”や、2冊の本を入れた福袋“読本来福”など。行政とは違った、新しい視点を持つ館長だから挑戦的な企画もできると思っていますし、もしもやってみてダメだったらやめればいい。そういう気持ちでいます」。

町の人の声を聞く、等身大の図書館であるために

本を介して人と人をつなぐ場づくりも行う「まちとしょテラソ」。その1つ、町の中の小さな図書館“まちじゅう図書館”は、個人のお宅や酒屋さん、味噌屋さん、銀行、郵便局などの一角で本を自由に閲覧できるうえ、貸し出しもOK。こうして町の人を上手に巻き込んでいけるのは、町の人が持つ“ある気質”が関係しているそう。

「町から補助金が出るわけではないですが、オーナーの皆さんは、人との交流を楽しみながらやってくださっています。どうしてここまでできるのか。小布施町には、2000年から始まった“オープンガーデン”という、個人の庭を一般に公開する活動があるんです(その数、今ではなんと130軒以上)。自分たちが楽しんでいるものを、ほかの人にもおすそわけしたい。そういうちょっとお節介で人思いの気質が、町の人の中に根付いているのかもしれません」

ほかにも落語会やワークショップを開催したり、創作童話を募って大賞作品を本にしたり。こういった図書館の枠をはるかに超えた活動こそが、私たち思い描く理想の図書館の姿なのかもしれません。そんなことを伝えると、三輪さんはそっと笑いながら答えてくれます。

「僕たちは変わった図書館だとは思っていないんです。小布施町には、有名な神社仏閣があるわけでも、風光明媚な景色があるわけでもない。でも町の人は昔から町づくりに積極的に参加していて、町への誇りと愛は一段と強いんです。だから町の人みんなが作ったこの『まちとしょテラソ』は、こうあるべきという固定概念もないし、町の人の声にこたえられる等身大の図書館でありたいんです。だって図書館はみんなのもの。背伸びしてもしょうがないでしょう」

まちとしょテラソ

長野県上高井郡小布施町小布施1491-2

TEL:026-247-2747

開館時間:9:00~20:00

休館:火曜

編集後記

いい意味で図書館らしくない図書館。まちの人が積極的に図書館を楽しんでいる感じが伝わってきました。まさに“場を開く”を実装している。

空間の用途を決め付けないで、余白を残し、使い方を使い手が考える。自分たちの居場所は自分たちで創る。行政はそれを応援する。まずは、スモールスタート。失敗したらやり直す。チャレンジ精神溢れるスタートアップのような街づくり。でも決して無理はしていない。これからの公共空間のあり方を感じる場でした。

(未来定番研究所 村田)