2019.07.18

ゼペットで叶う オタクとオシャレのボーイ・ミーツ・ガール

日本で爆発的ヒットとなったアプリ「SNOW(スノー)」。そのSNOW社が新しいアプリ「ゼペット(ZEPETO)」をリリース。SNOWはビジュアルコミュニケーションツールとして、ARカメラを使用したサービスですが、ゼペットは3Dで自分だけのキャラクターを作ることができたり、それをSNSに投稿することができます。今回はゼペットについて、SNOW Japan株式会社でゼペットの事業統括を担う崔智安(チェ・ジアン)さんと、女の子がプリクラやSNSなどでかわいく見せる「盛り」を研究している久保友香先生をお招きしてお話を聞きました。

もはや職人技!ゼペットにハマる女の子たちは、SNS上で知り合った人たちで1本の動画を仕上げています。

アバターをつくるゼペット

久保さん

アバターはどちらかというと男の子向けのものを見慣れているのですが、ゼペットは女の子向けだったので、「へえこういうのも出るんだ!」とびっくりしました。わたしもSNSに自分の顔を載せることに抵抗があるので、早速出かけた先で撮影した写真にゼペットで作った自分のアバターを合成してTwitterにあげてみました(笑)。これからみなさんにどのように浸透していくのか、すごく興味深いです。ゼペットは、アウトドア派が好むオシャレ要素とインドア派が好むオタク要素の両方を持ってるところが面白いと思っています。

崔さん

ありがとうございます。わたしたちは”オタク”向けや、そうでない人向け、など、特に対象を決めてアバターサービスをつくっているわけではありません。たしかに以前は、JK(女子高生)が「オタクってキモイ」という構図がありました。でも、いまはJKが自分のことをオタクと言いますね。ゼペットの中でも「#ZEPETOでオタ活」というのが流行っています。以前はJKとオタクは水と油みたいな印象がありましたが、ゼペットの中では、たしかに混ざることのないものが混ざっているよう見えます。

久保さん

わたしは日本の女の子の「盛り」文化を研究していますが、プリクラや化粧でがんばって作り込む女の子たちのことを調べています。自分の好きな分野に極度に傾倒する人をオタクと呼ぶとすれば、「盛り」に夢中な女の子たちもかなりオタクです。男の子たちに多いオタクとかなり似ているけれど、そこは女の子の「盛り」文化と相容れないのが面白くて。きっとなにかつながったらすごい仲良くなるかもしれない。歩み寄ったらいいなと思いながらも、なかなか歩み寄らなかったのが、ゼペットはついにそこをつなぐ存在になるかもしれないと思っています。

崔さん

TwitterとInstagramの違いかもとも思いますね。あくまで日本での例ですが、インスタは女の子のオシャレや「映え」の象徴的なメディアです。一方いまのTwitterはどちらかといえばオタク寄りで昔の「2ちゃんねる」の感じに似ています。ゼペットはそのどちらにも浸透させていきたいですね。

久保さん

男の子に多いオタクと女の子に多い「盛り」のオタクで大きく違うのは、「盛り」は自分という素材をもとに作り込むこと。でも男の子たちは例えばプラモデルなど、自分の外にあるものを作りこむことが多いと考えます。アバターを作るときも男の子なのに美少女を作るように、自分を素材にしないことが多い。アバターを作るためのサービスはこれまで、どちらかというと男の子に多いオタク向けが多くで、女の子に多い「盛り」オタク向けのものが少なかったのが、ゼペットはそれを融合したと思います。盛るのが大好きな女の子たちは器用だし作るのが好きなのでゼペットのような容易にオシャレになれるグラフィックツールがあれば、自分を素材に自分のアバターを作り込むことはますます盛んになっていく可能性があると思います。

女の子の「盛り」を研究している久保さん。研究をまとめた『「盛り」の誕生: 女の子とテクノロジーが生んだ日本の美意識』(太田出版)が好評発売中。

もう一人の自分のビジュアルをつくる

久保さん

最近、数ある顔加工アプリの中で、SNOWの「ノンフィルター」が一番盛れるという声を聞きました。それはつまり、SNOWの価値が、あのおもしろい「フィルター」だけにあったのではなく、加工技術の性能の高さにあったことを示します。開発はどこで行われているのですか?

崔さん

韓国です。韓国の人たちはとにかく”速い”です。僕もすごい相当気が早いんですけど(笑)。例えばトレンドになりそうものを、考えて時間をかけて作ると、それではもうトレンドが終わってしまう世の中です。SNSでの流行も、だいたい1日2日で火がついて消えてしまう。それをテレビで大人が知って女子高生に古いと言われてしまう。本当に毎日毎日状況が変わっていくので、日々対応していかないといけない。だからものすごく大変で、心の余裕がない(笑)。

久保さん

SNOWやLINEのような定着した土台の上で、つねに速い変化を取り入れていますよね。

崔さん

ブログやホームページなど、SNS的なものは前からありましたが、もっとスピーディーにコミュニケーションできるものがいまのSNSというものだと思っています。僕はそれらをデジタルのツールだと思っていますが、そのツールライフに変わっていくような気もします。なんだろう、例えば、携帯がない1日を想像したら地獄ですよね(笑)。

久保さん

たしかに、わたしが研究対象にしている女の子たちを見ていると、それは地獄のようなものかもしれないと思います。つまりいまやデジタルコミュニケーションツールは生活の一部であり、人生を大きく司っているということです、そうすると、SNSを始め、デジタルコミュニケーションにおける人格は、リアルなコミュニケーションにおける人格と同じか、それ以上に重要なものになっていきます。

 

そしてそのデジタルな人格は、物理条件にも支配されず、自由に作ることができる。だからそれがリアルな人格と使い分けされることは多く、サブ垢や裏垢のように複数の人格を持つことも当たり前で。そのようなデジタルコミュニケーションにおける自分というのはもう存在しています。ただそれがアバターとして独立して認識されていないだけ。それがゼペットによって認識が進むことは十分ありえます。

崔さん

そうですね。まだゼペットがどう使われていくのか、わからないところはあります。「Foodie(フーディー)」という食べ物を撮るカメラアプリを作ったんです。そしたら、顔が盛れるらしく(笑)。開発者の意図しない使い方をされましたが、それはそれで全然いいんです。

韓国と日本を行ったり来たりだという崔さん。街中で自撮りする女の子たちをたくさん目にするという。写真は実際にE-Girlsのダンスを自分たちでつくったゼペットのグループ。

日本・中国・韓国の自撮り文化

久保さん

プロフィール写真とハンドルネームで形成されるネット上の自分と、現実の自分との両方を使いこなすことはすでに始まっています。わたしは日本の女の子たちをずっと観察していますが、彼女たちのやり方は上手いなと思うところがあります。現実世界の自分は学校に所属していたり、企業に所属していて、何かしら守られていることが多い。

 

でもネット世界の自分は個人が晒されてる状況なので、あまりすっぴんを晒すことは危険です。そんな中日本の女の子たちは、SNOWなどで「盛る」ことにより、見知らぬ人からは見分けがつかないけれど、仲間同士では見分けがつくような顔にしています。それにより、危険から身を守りながら、仲間同士で平和に楽しむことを実現している。そこにSNOWがすごくハマったと思います。韓国はどうですか? 本当の顔を晒したくないという感じはありますか?

崔さん

そうですね。日本が最もその傾向にあるように思いますね。韓国と中国を見ると、中国の方はもっとより派手ですね。SNOWの盛り方が派手。

久保さん

中国のユーザーはなん人くらいいるのですか?

崔さん

中国はだいたい1億6千万くらいユーザーいます。

久保さん

すごいですね!

崔さん

僕たちは日本だけを見てサービスを作ってるわけではなくて、世界の流行を見ながら考えてるので、SNOWやゼペットも、日本の方々が後から日本ならではの使い方をしてくださっています。韓国ではフレームだけつけるなど、顔はいじらないサービスが多いです。日本は圧倒的に顔の加工ありき。ですから、国によって人気コンテンツが全然違うんですよ。

久保さん

アジアの比較文化の壮大な研究ができそう。

崔さん

不思議なのは、日本も中国も韓国も、みんな同じような生き方をしていますよね。

久保さん

顔も似ています。

崔さん

それなのに、日本は顔を加工したいし、中国は派手めに仕上げるし、韓国はフレームだけだったりして。文化の差が見えてきて面白いですよね。

久保さん

日本の女の子の間では、最近は顔より全身を撮ることが盛んになっています。スマートフォンのカメラの性能が向上し、遠くから高解像度で撮影できるようになったからだと考えます。そうやって顔よりも全身でネット上のビジュアルアイデンティティを作ることが盛んになってる中で、ゼペットがすごくしっくりきます。

 

顔を加工するSNOWから全身を加工するゼペットになり、いずれも女の子たちの「恥ずかしさ」を解消する機能としてつながってると感じています。あとは自撮りを公開するときには言い訳がほしいんですね(笑)。そんなときに「SNOWで遊んでるだけだから」、「ゼペットで遊んでるだけだから」と言えるのがいい。でもこれもやはり日本的なのでしょうか。

崔さん

国によって認識が変わってくるというのはあると思います。自撮り、セルフィーや盛りなど、友達に突っ込まれると恥ずかしい文化ですよね。でも中国や韓国だと、みんな写真を街中で撮るのに恥がない、もっと堂々としていて、道のど真ん中でも撮る。中国や韓国は大胆に写真を撮る印象があります。

久保さん

たしかにそうかもしれない。

崔さん

これは面白いデータですが、いまスマホにはインカメ、外カメがついていますよね。インカメは セルフィー、外カメ・アウトカメラは友だちや、風景用に撮影。SNOWの中での使用率を見ると、やはりインカメの方が圧倒的に多い。

久保さん

インカメラでSNOWを使う撮影は「自撮り」と呼ばないこともありますね。「自撮りをする」のではなく「SNOWをする」というように。

崔さん

特に日本のユーザーはそこをオープンにしないですね。「フィルターをかけていない」と言っても、ばりばりに加工していたりする。

久保さん

そうですね、そもそも「自撮りはしない」と言いたい傾向はあります。

崔さん

なかなか本音を言ってくれないんですよ。 作り手としては知りたいところなのですが(笑)。

崔さんの貴重なデータのお話などを聞いて「これからの研究に役立ちそう!」という久保先生。

久保さん

ゼペットはキャラクターも特徴的ですよね。

崔さん

そうですね、リアル寄りではあります。世の中のトレンドによって顔の作り、形も変わっていくと思っています。ゼペットも、もう少ししたら変わっていくとは思いますね。

久保さん

いまは「これ絶対ゼペットで作ったな」とわかりますよね。それがブランドになっている。

崔さん

そうですよね。ただ何が正解かは決まっていません。いまはAIで顔の特徴を抽出してつくっています。ですので、顔はさまざまな人種に対応できます。現在は180カ国以上の国と地域で展開していて、もうすぐ1億ユーザーに到達します。

久保さん

すごい!

崔さん

SNOWと比べるとまだまだです。他の会社のサービスは、そのサービス空間に閉じ込めさせようとすることが多いですが、それがゼペットと他のサービスとの一番の違いかなと思います。ゼペットは、別にゼペットでなくてもいい。Twitterでもインスタでも。リアルな世界に溶け込んでもいい。ゼペットが最終的に目指すところはゼペットというプラットフォームになっていくことだと考えています。

久保さん

どう進化していくのか楽しみですね。

崔さん

ありがとうございます!今後も是非注目してもらえると嬉しいです!

編集後記

昔は全く別次元だった「オタク」と「JK(女子高生)」。いまやオタクの概念も進化してJKとの壁もなくなり本来混ざらないようなものが混ざる時代になってきています。自分がいいと思ったものにハマる、そんなオタクな自分をちょっぴり盛ったアバターの姿を借りこのコミュニティの中で進化させ、繋がり、世界を広げていく。その中での体験もどんどんリアルな世界に近づいてくるのかもしれません。事実、ゼペットの中では様々なファッションの最新アイテムを購入できたり、仲良しと旅行、アバター同士で写真に収まる体験も満載。SNOWで自撮りが普通になったように、ゼペットでもリアルな世界での体験が普通になってくる予感がします。また、「こうなるだろう」という予測を元に考えるのではなく時代や進化に合わせた可能性を残して、成長させるプラットフォームも今後は不可欠だと思いました。

(未来定番研究所 津田)