2019.08.26

家具との新しい付き合い方

「サブスクリプション」という言葉をご存知ですか?

最近よく耳にするという方も多いかもしれません。「サブスクリプション」とは、定額料金で一定期間、該当するサービスが受け放題になるというもの。月額○○円で、コーヒーが飲めたり、ランチができたり、ヘッドスパが受けられたりと、あらゆる産業で、「サブスクリプション」サービスが導入されています。そして、それは家具業界も例外ではありません。これまで家具や家電は購入して不要になったらリサイクルショップに売却したり、廃棄したりすることが当たり前に思われていましたが、近年「家具のサブスクリプションサービス」を提供する企業が続々と増えています。各社様々なサービスを展開する中で、新品の商品を提供し、使い続けても定価以上は請求しないという消費者に嬉しいサービスが注目を集めている〈サブスクライフ〉代表の町野健さんに、サービスの内容や利点、そしてこれからの家具との付き合い方などについてお話を伺いました。

家具を月額制で利用する、新しいスタイルを提案

F.I.N.編集部

家具のサブスクリプションサービスをはじめようと思われたきっかけを教えてください。

町野さん

私自身、引っ越しする時に、いい機会だからと家具屋を30店舗くらい見て回ったんです。その時、2つ感じたことがあって。ひとつは、いいと思った家具は高い。そしてもうひとつは、サイズやデザイン、色など、なかなかぴったりな物に出合えない。満足できる家具を探すのって意外と不自由だなと感じたんですよね。世の中にはいい家具はたくさんあるのに、そういう理由で妥協したり、諦めてしまったりしている人も多いのではと。また2017年にアメリカを訪れた時、ベンチャー企業の経営者たちが口を揃えて、「今、お金の回収はサブスクリプションだ」と話していました。その頃、日本では月額で音楽と映画などの配信はあったと思うけど、サブスクリプションという言葉はあまり使われていなかったと思います。アメリカの状況を見て、日本でもサブスクリプションのブームが来るなと感じて、自身が体験した家具の悩みとそれを掛け算したら面白いんじゃないかと思ったんです。

F.I.N.編集部

〈サブスクライフ〉のサービスについて教えてください。家具の「レンタル」とは違うのでしょうか?

町野さん

レンタルは、短期間には向いているけど、長期間借りると高くなります。例えば、旅行用に一眼レフを短期間レンタルするのはとても便利ですが、長期間借りるなら購入した方がいいですよね。またレンタルは中古品も多く、家具や家電を借りるのはハードルが高かったと思います。〈サブスクライフ〉では、現在家具や家電、インテリアグリーンなど約50ブランド、4万種類の商品を取り扱っており、すべて新品で提供しています。3ヶ月〜24ヶ月の間途中で返却してもいいし、使い続けてもいい。その商品の定価まで達したらそれ以上は請求しません。これがレンタルとの大きな違いです。割賦販売に近い方法ですが、返却の際の引き取りも対応するため面倒がないのもメリットのひとつです。もちろんシミやキズができても、直して使える状態でれば追加料金は発生しませんし、自分のもののように自由に使っていただいて大丈夫です。「それなら、憧れだったあのソファを使ってみようか」という思考になりますよね。いいものを手軽に使い始められるということも、家具のサブスクリプションの利点です。いいものを使うと、長く大切に使おうと気持ちにもなるじゃないですか。妥協して家具を買うと、引っ越す時に捨ててしまう人が多いんですよね。私たちは、「捨てない」仕組みを作りたかったんです。

家具やインテリアグリーン、家電も取り扱っている

家具を長く大切に使う。サステナブルな発想

F.I.N.編集部

「捨てない」仕組みとは、どういう意図があるのでしょうか?

町野さん

人は、大学進学での上京、異動や転勤、結婚・離婚などのライフスタイルの転換点で、意外と引っ越す機会が多いんです。その度に家具や家電を買い換えている人も多く、使わなくなった家具を捨ててしまっている。捨ててしまった家具は、どうなっているかわかりますか? 大半は埋立地に埋めているんですよね。「捨てる」ことでビジネスが成り立つ場合もありますが、それは地球環境にとって果たして良いことなのだろうか、もっと人にも地球にも優しくサステナブルな仕組みを作れないだろうかと考えました。ですから返却された家具は、2周3周とまわっていくようなビジネスを目指しています。家具のサブスクリプションサービスをはじめたことには、こういう発想もありました。

家具のコーディネートも提案している。セットで借りることも可能。

F.I.N.編集部

実際に、返却された家具はどのようにまわっていくのでしょうか?

町野さん

〈サブスクライフ〉では、2通りあります。ひとつは、中古家具屋さんに売却。もうひとつは、中古でいいとおっしゃるお客さまもいるので、きちんとリペアしてお得な価格で提供し、新品か中古かお客さま自身で選べるようにしています。直した方がコストはかかりますし、処分してしまった方が正直ビジネスにもなります。それでも、長い目で見ると直してものが回る方がサスティナブルですよね。ヨーロッパでは高価でも良質な家具を買って、3代受け継いで使うなど、物を大切に長く使う文化が根付いています。いい家具は、年月を経てもやっぱりいい。不要になったら捨てるのではなく、次の誰かへ受け継ぐことができるよう、扱う商品も長く使えるいい物を厳選しています。

ものとの付き合い方、価値観が変わる未来を考える

F.I.N.編集部

サブスクリプションサービスについて5年先の未来をどう想像しますか?

町野さん

今、ものを売るというビジネスが大きく変わっていると思います。機能や値段も変わらない、いいものが増えて、スペックだけで差がつかない時代です。その打開策として、リピートしてもらえる仕組み、つまり、サブスクリプションサービス。高価でいい物は増えているし、需要もあります。でも多くの人が、欲しいけど買うとなるとなかなか踏み出せない。いい物だとわかっていても、それが10万円なら、1万5千円のもので妥協する人も多いと思うんです。それが、月々3千円で使えるなら、10万円の方を選ぼうかなと考える人も増えるかもしれません。また回収サポートで捨てずに返却できるので面倒もなく、捨てることで心を痛めなくてもいい。安価な商品を大量に売って、大量に捨てて、また買い直してもらうというビジネスモデルではなく、これからは質の広がりが必要。ゴミ問題も深刻化し、規制も厳しくなるであろう未来では、ものを買うことや捨てることの価値観が、もっと変容していくのではと感じています。マーケティングの観点だけでなく、サステナブルの観点でも、自然とこういうビジネスモデルは浸透してくと思っています。

F.I.N.編集部

〈サブスクライフ〉の今後の展望についてお聞かせください。

町野さん

部屋の中のあらゆるものをサブスクリプションで提供できるようにしていきたいと考えています。ソファカバーやカーテン、アートなど、あらゆるものが月額で買えるというのも面白いですよね。私もインテリアが好きなのですが、いい家具が部屋にあると、日々見る景色もガラリと変わるんです。これから会社に行って働くという働き方も減っていく時代、部屋の環境を整えるという分野にはニーズがあると思っています。そうなるとやはり、ちょっといいものを使いたいと思う。私たちが共感できるいい物を作るブランドやみなさんが欲しいと思う商品を、今後も増やしていけたらと思っています。

サブスクライフ

編集後記

私自身も様々なライフスタイルの転換期に、家具を買い換えるというタイミングが訪れました。そこに、環境にまで配慮された「サブスクリプションで家具を買う」という選択肢が増える事は、様々な可能性を生み出します。

特に単身赴任の場合、安い家具を購入し、赴任が終わると結局を捨てて帰るという事が多いですが、サブスクリプションであれば、期間限定で憧れの家具と一緒に豊かな生活を送る事ができる。

ヨーロッパでは家具は捨てず、古い家具にも価値を見出す文化がある、とも教えて頂きました。

良いものを試す事から始めて、納得してオーナーになって頂くというモデルを使って、衣・食・住すべてをサブスクリプションで提案する百貨店、良い物を提案し、長く使用して頂くという発想が、未来の生活にはマッチしているかもしれませんね。

(未来定番研究所 出井)