2020.09.30

加藤容宗さん×清水みさとさん 心豊かに過ごすための「サウナのすすめ」。

Profile

加藤容宗

慶應義塾大学医学部特任助教・日本サウナ学会代表理事。サウナ教授とも呼ばれている。専門はすい臓がんを中心にした癌全般と神経変性疾患の病理診断。著書に『医師が教えるサウナの教科書 ビジネスエリートはなぜ脳と体をサウナでととのえるのか?』(ダイヤモンド社)

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清水みさと

女優。演劇ユニット「オーストラ・マコンドー」所属。サウナ・スパプロフェッショナル、フィンランドサウナアンバサダー。平日の19時から放送している『清水みさとの、サウナいこ?』(TOKYO FM)のラジオパーソナリティを務めている。

近年、盛り上がりを見せるサウナ。サウナを愛好する人たちは「サウナー」と呼ばれ、その人口は増え続けています。医師であり生粋のサウナーとして、医学的な観点からサウナを解説した本『医師が教えるサウナの教科書 ビジネスエリートはなぜ脳と体をサウナでととのえるのか?』を出版されている加藤容宗さん、サウナ・スパ健康アドバイザーの資格を持つ女優・清水みさとさんの対談から、未来のサウナを探っていきます。

サウナは、一番素直になれる場所。

加藤さん

清水さんとは、はじめましてですね。ラジオを聞いていて、すごく親近感を感じています。

清水さん

はじめまして。先生のコラムも読ませてもらっています。お会いできることを楽しみにしていました。

F.I.N編集部

サウナ好きの間では有名なお2人の初対談です。まずは、サウナを好きになったきっかけから教えてください。

加藤さん

僕の本業は癌の診断と研究です。癌になってしまうと体力的にも辛いし、治療費もかかります。完治できずに亡くなってしまう方も残念ながらまだまだ多い。癌の研究をしていくなかで、癌にならないように予防することが一番幸せだという結論にたどり着き、予防に効きそうなものをいろいろ調べていたんです。そんな時、ちょうどサウナーの方々とラジオでご一緒する機会がありました。最初は僕、サウナーの言っていることが胡散臭いと感じていたんですよ。彼らに正直にその気持ちを伝えたら、その足でサウナに連れていかれました。実際に入ってみたら予想とは全然違うなと。そこから本格的に研究をしたくて、サウナに入り始めました。

清水さん

さすが、先生はサウナへの入り口も新しいですね。

加藤さん

世の中に残っているということは、なにか理由があるはず。それなりにいいものでないと淘汰されてしまいますから。それを医学的にきちんと研究をしてみようと思いました。清水さんはどうですか?

清水さん

私は大学生の時、ダイエットのためにジム通いをはじめました。毎日決まった時間に通っていたら、お風呂場でいつも会うおばちゃんたちと仲良くなったんです。そのおばちゃんたちは、みんなサウナに入っていたので私も一緒に入るようになりました。水風呂の入り方も、休憩の仕方も教えてもらいました。毎日おばちゃんたちに会うのが楽しくて、気付いたらルーティーンになっていたんです。

加藤さん

サウナには、決まった場所、決まった時間にいつもいる、いわゆる「主」(ルビ;ぬし)と呼ばれる人たちがいますよね。

清水

そうそう(笑)。面白いおばちゃんたちで、サウナのなかでは本当にくだらないことを話していました。些細なギャグでも、サウナのなかだとなぜかおかしく感じるんですよ。

加藤さん

僕もサウナでよく会う人に声をかけたことがあります。この人いつもいるなとお互い認識し始めたら、会話が始まったりしますよね。

清水さん

サウナのなかだと、なぜか話しかける勇気が出るという魔法があります。

F.I.N編集部

サウナは、コミュニケーションの場所としても機能しているんですね。

「ととのう」って具体的にどういうこと?

F.I.N編集部

サウナーがよく言う「ととのう」とはどういう状態なのでしょうか。

清水さん

サウナに入ると、すっきりして気持ちいい。その感覚がサウナ漫画『マンガ サ道』(タナカカツキ著、講談社刊)で「ととのう」という言葉を使って表現されていて、すごく納得しました。

加藤さん

ただ、「ととのう」の感じ方が人によって違う可能性があります。ふらふらするとか、頭がグルグルするとか。人によって表現が違う。そこで「ととのう」とは何かを調べるためにMEGという超高精度の脳波計を使ってサウナの脳への効果を調べました。その結果、脳科学的な変化はみんなほぼ一致していました。みんな一緒なんだったら「ととのう」を数値化したらもっとわかりやすいし、おもしろいんじゃないかと思いました。「今日のととのいは60」とか表すことができたら、健康的にサウナを楽しめますよね。だから、サウナに入る前と後に自律神経の数値を測ってみたんです。ほとんどサウナに入らない人を測ってみたら、数値がすごく上がりました。その人は30歳代だったんですが、すごく疲れていて自律神経の機能が60歳並みでした。サウナに入った後はなんと20歳くらいの数値まで上がりました。

清水さん

そんなにも数値に現れるんですね。

加藤さん

サウナに毎日入っている僕が測ってみたら、最初から自律神経の機能が高くて、サウナに入らなくても「ととのって」いたから何セット入ってもほぼ変動しませんでした。全然ととのってなくてちょっと絶望感を感じましたね(笑)。しかしサウナーの向上心を利用したら、「ととのう」というちょっと面白そうな指標を使って、結果的にみんなで健康になれるかもしれない。ととのい値100点満点を目指して、みんなが競うんです。健康的な「ととのう」を数値化すれば安全にサウナを楽しめます。

清水さん

私、「ととのう」を求め過ぎて朝昼夜と1日3回入っていた時期があります。何回も繰り返して入っているとピタッと汗が出なくなる瞬間がある。そうなったら、タンブラーに入れて持ち込んだお湯を飲んで汗を出していました。それは健康にサウナを楽しむこととは、ほど遠いですよね?

加藤さん

サウナーはもっと長く入っていたらとか、もっと冷たい水風呂に入ったらとか。徹夜などのきついタスクを課してからサウナに行くとか。より強い刺激を求めがちですよね。

清水さん

そう、貪欲になってしまうんです。

加藤さん

いわゆる、ランナーズハイのような状態です。人間の脳は、辛くなってくるとその苦痛に耐えるためにストレスホルモンと一緒にドーパミンという快楽物質を出します。それで苦痛を中和してなんとか耐えています。でも体がストレスに耐性ができてくると快楽物質ばかり感じるようになり、それをもっともっと求め始めてしまう。サウナでも、自分をどんどん追い込んでドーパミンを出そうとする。そういう状態です。

清水さん

危険ですね。基本的にサウナは毎日入りますが、がっつり入る日もあれば短時間の日も。ほどほどがちょうどいいですね。その方が体調は良い気がします。

加藤さん

サウナーの貪欲さを、快楽だけではなくて健康を求める方向に活かせたらいいですね。

サウナブームのこれから。

F.I.N編集部

サウナがここまでブームになったのは、なぜだと思いますか?

清水さん

昔より、自分の時間を大切にする人が増えたのではないでしょうか。実際私も無理せずサウナに行って、リラックスする時間を大事にしています。自分を大切にする考え方が日本でも広まっているのかなと思います。

加藤さん

そうですね。日本はどんどん経済的に成長してきましたが、今は経済的な成長が止まり下降しています。うつ病などの心の病気も増えている現状のなかで、「もっと幸せに生きた方がいいのではないか」と、みんなどこかで思っています。かといって田舎で生活するなど、生活をガラッと変える方法は現実感がない。普段の動線に気軽に取り入れられる、幸せな生活を追求するための導入編が欲しかったのかもしれません。そこに現れたのがサウナだったのでしょう。

清水さん

サウナの中ではSNSの情報を遮断できることも大きいです。まさに自分と向き合える空間。今は若い女性のサウナーも増えています。

加藤さん

女性の利用者は増えているけど、施設がそれほど増えていないという問題はありますね。

清水さん

男性用サウナに比べて、女性用はまだまだ少ないと感じますね。

加藤さん

子育て世代のお母さんたちは、家事や子育てなどに忙殺されていると思うんですよね。そういう人に一番「ととのって」ほしいけれど時間がない。そんな忙しい人をととのわせるには、どういう環境が必要なのかを考えてみました。例えば子どものスイミングスクールとか、習い事、保育園の横にサウナを作る。子どもがレッスンを受けている間に、ひとととのいできるじゃないですか。女性が罪悪感なく、今の生活にマッチした形でサウナを楽しみ、ととのえる場があったらいいんじゃないかな。

清水さん

たしかに、疲れている人ほど入ってほしい。サウナは必要な健康インフラですね。

加藤さん

5年先の医療は治療よりも、早期発見、予防の方向に段階が移っていくと思います。サウナのように楽しい、気持ち良い、などプラスの感情を原動力にして病気を予防してけたら理想ですね。そういう世界をつくるためにも、サウナのように楽しくて健康になれる場所はもっと必要です。

清水さん

これから世界は、1人ひとりがクリエイティブになっていくと思う。クリエイティブであるためにもサウナが必要だと思います。

加藤さん

実際サウナに入ると、感受性が豊かになりますよね。サウナのなかで、テレビをみて泣いちゃったりして(笑)。

清水さん

はい。サウナのなかだと素直になれます。心身ともに真っ裸に。もっと多くの人にサウナの魅力を知ってもらい、柔らかい世界になるといいなと願っています。

℃(ドシー)

サウナと睡眠に特化した新たなトランジットサービス。サウナを原点から見直し、本場フィンランド式のあり方をベースに、日本らしいクリーンで気持ちの良いサービスに再定義することで、これまでサウナにあまり縁のなかった若年層や女性にとっても、日常の中でごく手軽に味わえるリフレッシュな時間を提供しています。

 

ドシー恵比寿

営業時間:12:00-翌日10:00(最終受付9:00)

住所:〒150-0013 東京都渋谷区恵比寿1-8-1 | JR恵比寿駅から徒歩1分

 

ドシー五反田

営業時間:臨時休業中

住所:〒141-0022 東京都品川区東五反田1-20-15 | JR五反田駅から徒歩3分

編集後記

現在のサウナブームは第三次と言われている。SNSが人気を牽引し、世代、性別、地域を越えて「好き」な人たちが作り上げる新しいムーヴメントになっている。多様なサウナーが、魅力を発信している。その根底にあるキーワードは「健康」「ととのう」である。急速な技術進歩や環境の変化に、心と体がついていけない状態の人は多い。そのストレスを改善できる可能性を、サウナー達があらゆる角度で言語化している様は、健康の定義も新しく変えるパワーを感じる。サウナだけに少々「熱く」語りました。(未来定番研究所 窪)