2019.05.06

人生のエンディングはもっと自由に。 故人と遺族に寄り添う自宅葬の未来。

生きていれば必ず訪れる“死”という存在。大切な家族や恋人、友達にそんな場面が訪れたら、しっかりと弔い、おくり出してあげたいもの。こうした故人や遺族の思いに寄り添い、自宅で葬儀を行う“自宅葬”を提案するのが、コンテンツクリエイター集団・面白法人カヤックが立ち上げた「鎌倉自宅葬儀社」です。15年ほど葬儀業界に携わり、このビジネスを発案した馬場偲さんに、自宅葬に着目した理由や、エンディング産業の行方を伺います。

必要なのは、大切な人の死を受け入れる時間や空間。

自宅葬が当たり前だったひと昔前の日本とは違い、葬儀会館やセレモニーホールでお葬式を行う式場葬がほとんどを占める現在。そんな中、自宅葬に特化した「鎌倉自宅葬儀社」を、馬場さんをはじめとした面白法人カヤックが立ち上げたのは、2016年のこと。しかし、馬場さんの自宅葬の構想はもっと前。2003年に派遣会社で葬儀業界に入り、2008年に地元の埼玉で葬儀社を開業した後、2010年の祖父の死がきっかけになったと言います。

 

「これまでも遺族の人と会することはたくさんありましたが、自分の大切な人、親族を亡くした経験はなかったんです。そんな時、祖父が闘病生活の末、病院で他界したんです。家に帰りたいという本人の思いもあったし、僕たちも家に帰してあげたかった。だから祖父を自宅に連れて帰って、6畳の客間に布団を敷いて安置しました。葬儀自体は式場で行ったんですが、火葬場が空くまでの一週間、自宅に安置している間に祖父と親交のある人がたくさん来てくださって、僕たちの知らない話までしてくださった。後々考えると、この時間ってとてもかけがえのないものだったんだなと思うんです」

 

そんな体験をしながら、馬場さんは喪家の一人として葬儀を取り仕切り、尋問客やお寺さんの対応に追われ、祖父の死というものをまっすぐに受け止められなかったとも。

「悲しんでいられないし、偲べない。泣くこともままならないくらい忙しくて、常に落ち着かない状況でした。でもこれが喪主さんの気持ちなんだってわかったんです。だからこそ、故人を思い、偲び、死を受け入れる時間や空間が必要なのでは。それを故人が生前暮らしていた心落ち着く家でできたら…、そう思うようになりました」

面白法人カヤックだからできる

祖父の死に直面しながら、葬儀を執り行う緊張感から涙を流せなかった馬場さん。ところが一週間後、家族で祖父の話をしていた時にある出来事が起こるのです。

 

「放蕩娘の姉が入院中の祖父のお見舞いに行った帰り際、祖父が『俺も頑張るからお前も頑張れ』と叫んだそうです。それを聞いたら涙が溢れ出て、なんというかやっと死を理解できたというか。泣くことで気持ちを整理できることもあるんだなって」。

 

涙を流すことの重要性を知った馬場さんは、泣くことで気持ちをリフレッシュさせる「涙活」に参加し、運営にも携わることに。そうした中で出会ったのが、面白法人カヤック 代表取締役の柳澤大輔さんでした。

 

「思い描いていたのは、近所の人が総動員してお手伝いしたり、大きな祭壇が必要だったりする仰々しい自宅葬ではなく、6畳一間でもいいから遺族が故人との最後の時間を持てる自宅葬。こんな葬儀ができることを全国の人に知ってほしい。でも自分で立ち上げた埼玉の小さな葬儀社では限りがある。そこで思い浮かんだのが、いろんなことに挑戦している面白法人カヤックでした」。

 

全国へ広める力があって、柔軟なアイデアを持つ面白法人カヤックとなら一緒に叶えられるかもしれない――。そう思い立った馬場さんは、2016年1月、柳澤さんに自宅葬の構想を持ちかけます。すると、柳澤さんは即断。「鎌倉自宅葬儀社」という社名もその場で決まったのです。

葬儀はもっと自由であっていい

「鎌倉自宅葬儀社」のプランは、主に2つ。3日間程度のシンプルプランと、7日間程度のスタンダードプラン。特徴は、どちらも故人が亡くなった1日目は何もしないことをすすめていること。

 

「一般的な葬儀屋さんだと、ご逝去されたらすぐに見積もりやプランを提案することが多いのですが、僕たちは、1日目は何もしなくていいですよとお伝えしています。ここで故人としっかり向き合い、どう送りたいかをゆっくり考えてもらうことで、満足のいく最後の時間を作れると思うので」。

これをしたらダメ、あれをしなきゃいけないと、多くのタブーがあると思われがちな葬儀。しかし、もっと自由なものでいいと馬場さんは語ります。

 

「絵が好きな故人なら棺に絵を描いたり、庭いじりが好きな故人なら棺を庭まで運んで、育てていた草花を納棺したり。僕たちが重点を置いているのは、儀式的なことではなく、故人を最後に送り出すために、残された人たちが何をどうするかということ。自由度の高い自宅葬ではそれが叶えられるし、何よりも故人を思い偲べる時間と空間を持てるんです」。

 

それでも式場葬が大半を占めているのは事実。これまでの概念をくつがえす自由な自宅葬で、葬儀の多様性を築いた馬場さんの目に写るエンディング産業の未来とは?

「1割程度と言われる自宅葬の割合を9割にするのは、きっと難しい。でも、故人をしっかりおくりたいのに自宅葬を知らない人の背中を押してあげたい。僕たちは葬儀の間のたった数日の存在だけど、大事な時に寄り添っていたいんです。そのためには、葬儀の概念や常識に縛られず、とらわれずにいること。1年前には、新潟自宅葬儀社も設立したんです。地域によって葬儀の仕方は違うけど、僕たちが作った自宅葬のフォーマットが全国にどんどん広がっていけばいいなと。むしろ、広めていくのが僕の使命かもしれませんね」

鎌倉自宅葬儀社

お問い合わせ:0120-29-5980(24時間365日対応)

生前相談可。鎌倉市を中心に、神奈川県・東京都・埼玉県にも対応可能

https://kamakura-jitakusou.com

編集後記

形式や儀式的なものにとらわれず、故人や遺族の思いを重視した葬儀にしたい、というニーズをかなえる鎌倉葬儀社の葬儀サービス。冠婚葬祭で言えば、結婚式も式場が提示するオプションから選ぶのではなく、新郎新婦が好きな場所で自由にやりたいことをやりたいように行う、そんな形の結婚式も増えてきています。自由なスタイルの葬儀と結婚式、その両者の根底に共通しているのは、形式よりも「その人らしさ」や「人の思い」を重視する価値観ではないでしょうか。

(未来定番研究所 菊田)