2021.02.12
藻の一種であるユーグレナ(和名:ミドリムシ)や廃食油を主原料に、バイオジェット・ディーゼル燃料の実用化に取り組んできた〈ユーグレナ〉。2019年より、18歳以下限定で「CFO(Chief Future Officer:最高未来責任者)」のポストを新設しました。これは、同社のサステナビリティに関するアクションや、達成目標の策定に携わるサミットのリーダーとして運営する、重要なポストです。今回、昨年10月から第2期「CFO」に就任した15歳の川﨑レナさんをお迎えし、若い世代とともに新しいビジネスを創り出していく新しい社会のモデルについて、お話を伺います。
未来を作る次世代が、会社に参画する意味とは?
「未来をよりよくするための活動に、未来の当事者が参画していないのはおかしいのではないか?」。〈ユーグレナ〉の「CFO」は、そんな疑問から始まりました。18歳以下の世代には選挙権も、大学生のような企業インターンの機会もなく、限られた社会との接点しかありません。それは一方で、「大人」に忖度する必要のない、自由な世代であるとも言えます。そんな彼ら彼女らにも、社会を変える力があるということを知ってほしい。そして未来世代の視点で、持続可能な社会の実現を目指すことを目標として、CFOがスタートしました。現在、15歳の川﨑レナさんが第2期CFOを務めています。
「社会問題に興味を持つようになったのは、小学生の頃に読んだ『ランドセルは海を越えて』という本がきっかけでした。その本は、日本の小学生が使い終えたランドセルを、教材と一緒にアフガニスタンなど紛争による貧困に苦しむ地域の子どもたちに寄付するという活動を伝えるものなのですが、私とアフガニスタンの子たちは何も変わらないのに、なぜ私は教育が受けられるんだろう、という疑問が芽生えました。そして私にも何かできることがあるんじゃないかと考えるようになって、人権問題、それから環境問題にも興味を持つようになりました」。
川﨑さんは、環境問題や人権問題などに取り組んでいる組織〈アース・ガーディアンズ〉の日本支部として、2020年に友人と一緒に〈アース・ガーディアンズ・ジャパン〉を創設し、ディレクターを務めています。昨年、コロナ禍で、自分にできることを探していたとき、国際的な非営利団体〈アースX〉のインターンを経験しました。年齢や学歴、活動履歴に関係なく、情熱をもつ人たちと地球のために何かできるのではないかと活動を始め、現在も少しずつ活動の輪を広げています。
でも、個人の活動には限りがある。もっと活動の幅を広げていきたいと思ったとき、1期でCFOとともに活動するフューチャーサミットのメンバーを務めた同級生に、2期のCFO募集について教えてもらったそう。そして、昨年の10月、〈ユーグレナ〉のCFOに就任。今後は、個人の意見ではなく同世代の代弁をしていきたい、意欲のある同世代の人たちを喚起していきたいと語ります。
「気候変動や社会問題について危機意識をもっている同世代は多いのですが、機会がないからと、活動できていない人もたくさんいます。でも、何もしていないわけではなく、私が人権や環境問題に興味があると知ると、『サステナビリティってなんだっけ?』と質問してくれたり、『活動に参加したい』と言ってくれたりするんです。私は自分が特別だという意識はなく、たまたまCFOに選んでいただいたと思っています。このチャンスを活かして私に何ができるかと考えた時に、同世代の代弁者となりたいと思いました。だから、この私を通して、平凡な15歳でも、地球や困っている人のために何か行動を起こせるんだという姿を見せたいと思っています」。
サミットメンバーとともに、未来を変えるアクションを起こす。
ユーグレナ社では、川﨑さんとともに、18歳以下から選出された5人の〈Futureサミットメンバー〉が、会社のサステナビリティに関するアクションや、達成目標の策定に携わります。
〈ユーグレナ社〉のCFOの業務は、サミットメンバーと共に会社と社会を変える施策を考え、会社に提言すること。そのための、資料の準備や、施策を実行する上での進行管理、サミットメンバーや経営陣などとのミーティング、取材対応など多岐に渡ります。川﨑さんが、この活動の中で学んだことは、「他人ごとにしない」ということ。
「毎日のニュースで取り上げられている問題に対して、私は何ができるのか、自分の所属する団体ではどうか、〈ユーグレナ〉ではどうか、と常に考えています。どこかの地域で問題が起こっても、自分は関係なくて良かったと安心するのではなく、自分ならどう関われるのかと積極的に考えていくことが大事だと思っています」。
川﨑さんの任期は今年の9月まで。今、サミットメンバーとともに、未来を変えるための話し合いを進めています。
5年先の未来は、全ての意見が尊重される社会に。
それでは、川﨑さんが考える5年先の未来とは?
「今はさまざまな差別もあるし、SNSにポストされた意見で、傷つく人もいます。それに、コロナ禍によって、政府や企業、市民の距離がかけ離れてしまい、同じ人間だという意識が薄れてしまっているのではないかと思います。2年前、〈ユーグレナ〉のCFOが新設されたとき、企業が10代の意見を取り入れることに驚かれた方もいたそうです。政治に関して街頭インタビューなどでは『わからない』という声が多いですが、5年先の未来には、誰もが自分の意見をもち、政治や企業に反映させることが当たり前になる。そのような、全ての人の声が尊重される社会になっていてほしいと思っています」。
5年後、川崎さんは20歳です。将来の夢は?
「今は15歳だから、突拍子もない意見を言っていると思われているかもしれないし、行動を起こせるのは若いからだと思われているかもしれません。ですが、この姿勢は20歳になっても変えずにいたいと思います。今はいろいろな知識や経験が不足していますが、色んな問題に挑んでみるほどに、一つひとつのカルチャーには、政治や外交などさまざまな問題が絡んでいることを思い知らされます。だから、5年先は大学で国際社会関係を勉強して、しっかり知識をインプットしたいです。大学生になっても、未来を変えるアクションは起こしていたいし、学生のためのプラットフォームも作りたい。将来の夢は国連などの国際的な機関で働くことや、教育にも関心があって、NGOやNPO法人で日本のどの教育機関でもきちんとリーダーシップが学べるような環境整備に携わってみたいと思っています」。
川﨑レナ
2005年生まれ、大阪府出身。大阪府のインターナショナルスクールに通う15歳。趣味はミュージカル。NGOのアース・ガーディアンズ・ジャパンのディレクターなどを務める。
編集後記
〈アース・ガーディアンズ・ジャパン〉の立ち上げや、〈ユーグレナ〉CFO等、社会課題の解決に向けてバリバリ活躍されている川﨑さん。そんな川﨑さんの「まだ私は、なにも成し遂げていないと思っています」という謙虚な言葉に、はっとさせられました。目の前の仕事をこなすだけになっていないか。社会に対して意義のある仕事ができているか。仕事に対する姿勢を振り返るきっかけを与えてもらえました。これからの社会にインパクトを与えていくのは、年齢や経験を積んだ人だけでなく、年齢に関わらず、川﨑さんのように志をもって行動を起こしている方々だと思います。いくつになっても、そんな方たちから謙虚に学ぶ姿勢を持ち続けたいと思いました。
(未来定番研究所 菊田)