もくじ

2018.12.14

藤原美智子×山村博美 美しさの未来対談。<全2回>

第1回| 今こそ振り返る、平成のメイク

メイクは時代を映す鏡。

世の中の移り変わりとともに、女性たちの“美しさの基準”は多様に変化を遂げてしてきました。では、メイクの過去、現在をたどることで、どんな未来が見えてくるのでしょう? 今回お招きするのは、80年代のメイク黎明期からビューティ界を引っぱってきたヘアメイクアップ・アーティストの藤原美智子さん。そして、平安時代から現代までの化粧の歴史を体系的に研究している山村博美さん。異なる2つのアングルからひもときます。 今回は、平成のメイクをお二人に総ざらいしてもらいました。

(撮影:河内彩)

Profile

(写真左)藤原美智子/ヘアメイクアップ・アーティスト

雑誌や広告撮影のヘアメイク、化粧品関連のアドバイザーなど幅広く活躍。また、近年は美容だけでなく栄養コンサルタントとして食や健康、暮らし方といったライフスタイル全般を提案する。著書に『新しい口紅は寝る前に試す』(講談社)、『美の宿るところ』(幻冬舎)、『大人の女は、こうして輝く。』(KKベストセラーズ)『美しい朝で人生を変える』(幻冬舎)。新著に『美しく幸せに生きるための逆算思考』(集英社)がある。2017年5月、ライフスタイルブランド「MICHIKO.LIFE」を立ち上げた。

https://michiko.life/

Profile

(写真右)山村博美/化粧文化研究家

化粧品会社の研究所で、日本と欧米の化粧文化史、結髪史の研究に従事したのちフリーに。執筆活動のほか、講演や情報提供など、幅広く活動。主な編著書に、『化粧の日本史 美意識の移りかわり』(吉川弘文館)、『世界の櫛』(共著,ポーラ文化研究所)、『浮世絵美人くらべ』(共著,ポーラ文化研究所)、「江戸時代の化粧」(江戸遺跡研究会編『江戸文化の考古学』吉川弘文館)などがある。

山村さん

 

お目にかかれて光栄です。80年代から藤原さんのご活躍を雑誌で拝見してきましたから……。

藤原さん

ありがとうございます。80年代というとメイクもバブル全盛期! ……ここからお話を始めましょうか(笑)。バブルと言えば、フューシャピンクの口紅にブルーのアイシャドウ、前髪はトサカで肩パッドを入れてる時代ですね。

山村さん

男女雇用機会均等法が施行された時代を反映して、女性のパワーを強調するような髪型やファッションにあふれていました。景気もよくて、メイクにすごく元気がありましたよね。

藤原さん

「私をみて!」という主張の強いメイクで、細かいセンスよりもアピール力が最優先。

山村さん

”洗練“というマインドは、まだ芽生えてなかったですよね。

藤原さん

メイクに”洗練“が出てきたのは、90年代前半からだと思います。スーパーモデルの時代に突入して、輪郭のきれいなリップメイクや、すっと美しいアイライン、端正なナチュラル肌がフィーチャーされるようになりました。バブル時代はボサボサだった眉も整えるようになり、眉メイクの企画がすごく増えましたね。

山村さん

「藤原眉」という見出しが、雑誌を席巻していたのを覚えています。洗練された美人アーチの眉が、女性たちの憧れになりました。

藤原さん

の頃は一日中眉メイクばかりしていました(笑)。まだ化粧に特化した雑誌がない時代で、メイク特集をするとどの雑誌も部数が伸びるというので多忙でしたね。90年代は、日本女性が”美しく整える“メイクへと意識を向けた変革期だと思います。

山村さん

歴史をみても、社会的に大きな出来事が起きるとメイクにも新しい変化が訪れます。江戸から明治へと時代が変わると、洋風メイクが伝来して日本女性の顔の美意識も影響を受けましたし、戦争中はメイクも自粛ムードになりました。社会の変化からトレンドも生まれてくるんですよね。

藤原さん

90年代後半、スーパーモデルブームの次は “アムラー”ブーム。歌手の安室奈美恵さんをアイコンに、極細眉に茶髪のロングヘアが街にあふれました。洗練メイクトレンドの後は、すごい揺り戻しが来ちゃった。その後はガングロ、ヤマンバまで(笑)。流行りって、後で振り返ると恥ずかしい!と思うものも多々あります。最近は、お笑い芸人のイモトアヤコさんを彷彿とさせる“イモト眉”をしている女性を見かけるけど、これも後で見ると恥ずかしい流行かも (笑)。

山村さん

トレンドってその最中にいると客観的には見えづらいんですよね。周りがやっているから、ただ自分もやりたくなる。それが流行のパワーというものなんですよね。

藤原さん

極端なことをやらないと、トレンドも物事も時代も変わっていかない。それが正しいかどうかは別として、壊してから見えてくる新しさもあると思います。〈コム・デ・ギャルソン〉だって最初は“ボロ着”なんてパリで酷評を受けたのだから。壊して新しいものができる、そのエネルギーって大事だと思うんです。

山村さん

壊して新しいものを作るって、勢いある若者のパワーがあってやれることでもあるんですよね。今は若い人が減ってパワーが落ちているように思えてなりません。平成の美容を振り返ってみると「美白」で始まり「グレイヘア」で終わるのかしら、と。高齢化社会を映し出すようで、ちょっともの悲しい気もしますが……。2020年には日本女性の2人に1人が50歳以上になると言われてますから、若くてきれいじゃなきゃ、という暗黙の社会規範を壊すという意味でグレイヘアは興味深いトレンドだとは思います。

藤原さん

「グレイヘア」はひとつの選択肢にはなりますよね。ただ、ちょっと難易度は高め。常にお洒落に気を遣って、姿勢もよく、ポリシーがあるような方じゃないと、単なる「白髪混じり」にみえてしまうおそれがあります。最近、代官山のセレクトショップなどでも若々しいセンスの50代や60代をよく見かけるようになりました。エイジングを受け入れて楽しむ時代になっているのは喜ばしいなと思う一方で、こうした円熟した女性から「自分に自信が持てない……」という声も聞こえてくるんです。かつての50代60代とは比べ物にならないくらい気持ちは若いのに、鏡に映る自分のメイクや肌が追い付いていない、そのギャップが原因なのではと私は分析しています。大人の女性は「私には歴史があって、これが私のスタイルなの」と胸を張って言えるようにポリシーをしっかり持つべき。若者のトレンドをただ真似するのではなく、自分がポリシーを持っていることが大事だと考えています。

山村さん

仕事や趣味を持つ女性も増えて、高齢の女性が自分らしさの核を持つようになってきています。若い人に、素敵な大人の女性としてのお手本を見せていけたらいいですよね。

藤原さん

「こうなりたくない」ではなく、「こうなりたい」と思わせる年齢の重ね方をしていくこと。これは大人の責任かな、と感じています。

後編へ続く

藤原美智子×山村博美 美しさの未来対談。<全2回>

第1回| 今こそ振り返る、平成のメイク