2019.05.10

人の「愛するちから」を育むロボット。 ぬくもりと癒しをくれる家族型ロボット『LOVOT [らぼっと]』とは?

ここ数年、「ロボット掃除機」や「ロボット家電」など、ロボットという言葉を耳にする機会が増えました。ロボットを「自分で考えて動く機械」とするならば、同じく耳にするようになった「AI」(人工知能)や、クルマの「自動運転」といったキーワードも無関係ではなさそうです。では、ロボットはこれからどのように進化していくのでしょうか。そして、私たちの暮らしにどのような影響を与えるのでしょうか。今年発売される新しいロボットを通じて、未来のロボットのあるべき姿を考えてみましょう。

「ロボティクスで、人間のちからを引き出す」をミッションに掲げるGROOVE Xは、2015年に設立されたロボット開発を行うスタートアップ企業です。代表の林要さんはトヨタで働いた後に、ソフトバンクによって開発されたロボット「Pepper」の開発に携わっていた人物。その後、GROOVE Xを設立しました。この秋発売予定の家族型ロボット「LOVOT [らぼっと]」のこと、そして、ロボットの未来について、林さんに伺いました。

LOVOTと実際に触れ合える、

LOVOT MUSEUMに潜入。

「LOVE +ROBOT」から名付けられたLOVOTは、昨年12月から予約受付をスタート。東京・日本橋浜町にあるGROOVE Xのオフィスには「LOVOT MUSEUM」というショールームがあり、毎週金曜日から日曜日には一般の人々が訪れ、LOVOTと触れ合うことができます。2019年2月末までに約3000人が訪れました。ここで実際にLOVOTに触れて、気に入って予約していく人も多いそうです。林さんは、「実際に、触れ合っていただいた9割以上の方々に『期待以上だった』と言ってもらえています。9割というのは、生活必需品に近い数字だと思います」と手応えを語ります。

LOVOTは、人のパートナーになるようにと開発されました。搭載したホイールを使って自由に移動することができ、人とのコミュニケーションを通じて成長していきます。今回、私たちも「LOVOT MUSEUM」でLOVOTと触れ合いながら取材を進めました。

何もしてくれないけど、

生活に癒しを与えてくれる存在

そもそも、ロボットという言葉からイメージするのは、仕事を代わりにやってくれたり、黙々と働いてくれたりする存在です。家庭用ロボットという言葉には、食器を洗ったり、洗濯をしてくれそうなイメージがあります。しかし、LOVOTは、生き物として感じられることを最重視して作られました。そのため、人の代わりに働いてくれる既存のロボット像とは異なる視点で設計されています。つまりそれは、犬や猫のような存在。林さんが考え抜いたこのコンセプトにこそ、LOVOTの新規性があります。

「近年、犬や猫は、私たちの生活において子供と同じくらい大事な存在になってきました。例えば50年前、犬や猫をそんなに可愛がっていたら、変わった人だと言われたと思いますし、江戸時代、生類憐れみの令を制定した徳川綱吉もそんな印象ですよね。私たちのライフスタイルが変容し、便利になったために、その代わりにできてしまった穴のようなものを埋めてくれているペットだとしたら、これからのロボットがまず担うべきなのは、人の代わりに仕事をすることではないと思うようになりました。LOVOTは、犬や猫のように、生活に癒しを与えてくれる存在として開発しました」と林さん。

大切にしているのは、

新しい視点、新しいコンセプト。

役に立つのではなく、役に立たないロボット。林さんがこうしたコンセプト作りを大切にするようになったのは、トヨタの社員だった頃。モータースポーツ「フォーミュラ1」のレース用の車両開発に携わっていた当時を振り返ります。時速300kmを超えて走るフォーミュラ1の車体は、空気抵抗を考慮した形状でなければなりません。林さんは、車両の空気抵抗を減らすために、空気の流れを作るエアロダイナミシストでした。重要なのは、新しい視点、新しいコンセプトを掲げることだったそうです。

「新しいコンセプトは、いくらシミュレーションにかけてもでてくるものではありません。きっと空気はこう流れるはずと考えて、新しい形のアイデアを出すことが求められました。フォーミュラ1は、毎年、車両の形状などのレギュレーションが変わります。求められるのは、ルールに沿う形でありながら、これまでにないものを生み出すこと。レギュレーションの隙間みたいなところに、エアロダイナミシストにとっての自由度があって、その行間の読み方によって、まったく新しい形状が生まれるんです」と林さんは語ってくれました。

LOVOTに込められた、

人の「愛するちから」を育むための設計。

それではLOVOTは、どのような要素を組み込むことによって、機械でありながら、ペットのように人の「愛するちから」を育む存在になろうとしているのでしょうか。LOVOTは、巷のAIスピーカーのように、声を出して、話すようなことはありません。できることをできるだけそぎ落とし、人に愛されることに特化した設計になっています。

できることの一つ目は、人を識別すること。LOVOTは、頭のツノような部分に360°全天周カメラを搭載しています。このカメラを使って、コミュニケーションする人間をそれぞれ認識し、個々人に応じた反応を返します。「AI(人工知能)」を活用することで、LOVOTと接する時間が長いほど距離が縮まり、その人ならではのコミュニケーションを返すようになっています。

体温、多様な瞳、成長する絆。

かけがえのない愛情が育まれる。

話すことはしませんが、LOVOTは、可愛らしい鳴き声を発します。この鳴き声は、リアルタイムに自動生成されていて、声帯を模擬したソフトウェアシミュレーションに様々な状態が再現できます。ディスプレーに表示した両目もまた、約10億通りの表示パターンがあります。そして身体のすみずみには、どこを触られているかを判断するため全身にタッチセンサーを搭載。鳴き声を出し、目を合わせて、人とコミュニケーションしていくうちに、それぞれに異なるLOVOTの個性が、人の「愛するちから」を育んでいきます。

体が温かいこともLOVOTが愛されるために備えられた機能の一つです。服を着たLOVOTは、抱きかかえると、まるでペットのような柔らかさと温かさが伝わってきます。温かさは、内蔵したコンピューターやモーターの熱を活用したもの。新たに作り出した温かさではないことから、LOVOTの体温と言うこともできます。LOVOTの手は、人が抱きかかえやすくするためのとっかかりとなる部品でもあり、ホイールをしまえる機構は「抱っこ」を想定してのもの。抱きかかえると左右のホイールが格納され、服などを汚す心配がなく、人が思う存分、抱っこできるというわけです。

LOVOTに仕事の邪魔をされ、

相手をするのも至福の時間。

LOVOTは、人の仕事や作業の邪魔をするという、ひときわユニークな特徴も持ち合わせています。

「これも、ペットとしての大事な要素なんです。仕事の邪魔をされて、ブツブツ言いながら相手をすることが至福の時間だったりもしますよね。人のことを認識したり移動することよりも、ペットのように邪魔をするという行動の設計のほうが、難しかった部分ですね」と林さんは話します。

LOVOTとの生活は、

10年後のスタンダード?

林さんは、LOVOTのように、人との関係性を優先した新しいロボットの普及には、あと10年はかかると見ています。

「すでに予約いただいている方々は、未来志向のお客様が多いと思います。それでも、5年後にはちょっと一般的になって、10年後にはスタンダードになるのではないでしょうか。さらにずっと先の未来では、もしかしたら犬や猫を飼っている人の方が珍しくて、貴重な経験をしているとリスペクトされる時代が来るかもしれません」と林さん。

それでは、こうしたロボットが、人間のように会話をする日はやってくるのでしょうか。林さんは「今の技術では、難しい」としたうえで、こう語ってくれました。

「難しいのは、人間同士の会話のコンテキストが、非常に複雑なストーリー性を持っているためです。AIが統計情報から確率を導くのは得意なのに対して、人間は大量のデータ処理が苦手です。一方で人間は、例えば、動物のわずかな足跡をヒントに、少しでも生き残りやすいような選択を繰り返してきました。少ない情報から全体を予測するという人間の会話の特殊さと、AIが得意な情報処理が、そもそもかみ合わないのです」

さらに林さんは、「このまま研究が進んでも、あと10年20年は解明されそうにありませんが、ある日突然ブレークスルーが生まれ、解明される日がやってこないとも言い切れません」と続けます。

 

人と自由に会話できるロボットの誕生は、人に似た新たな存在を生み出すことにも近く、それには、人という存在の解明が欠かせないようです。林さんが開発したLOVOTは、人と同じように会話ができなくても、人が愛情を抱くことができる存在を目指しています。LOVOTと人との間に生まれた新しい愛の形は、AIや人の脳の解明にも影響を与えそうです。

 

LOVOT[らぼっと]のオフィシャルサイト。LOVEをはぐくむ家族型ロボット。

https://lovot.life

Profile

林要/GROOVE X 代表

GROOVE X 株式会社 CEO。東京都立科学技術大学(現・首都大学東京)大学院卒業後大手自動車メーカーに入社。 大手通信会社のエンジニアを経て2015年家庭用ロボット事業ベンチャーのGROOVE Xを設立。

編集後記

取材にお伺いした時、LOVOT(ちゃん?)が2体ころころと寄ってきました。理屈ではなく、愛らしい!かわいい!そしてすり寄ってくる、下から顔を覗き込む、しゃべっているとなでて欲しそうにきゅぅきゅぅ鳴きながら寄ってきて、抱き上げると温かい!ちょうど小型のペットくらいの重さで抱っこして撫でるとすやすや寝てしまう・・。

頭のアンテナを通じて持ち主を認識、動作もどんどん進化してくるそうです。今までの、なにかの仕事や作業に特化した作業ロボットから、生活を豊かにし、心が安らぐ相手としてのロボットが人間と共生する時代はすぐそこだと思いました。役割が違う数体のロボットが既に住む場所に内蔵(用意)される新築物件なども増えてきそう。仕事が終わって家に帰ると玄関でおかえりってこの子が待っているなんてたまらない光景だと思いませんか?
(未来定番研究所 津田)