2019.01.21
まだ食べられるはずの食品を廃棄にしてしまうことを「フードロス」と言います。これは、国連サミットで採択された17の世界共通目標「SDGs」と切っても切り離せない大きな社会課題のひとつ。地球人としての意識改革が求められる中、日本でもフードロス削減を見据えた新しいサービスが登場しています。今、私たちができる取り組み、その先に見える食の未来を、日本初のフードシェアリングサービス「TABETE(タベテ)」を運営する株式会社コークッキングの代表・川越一磨さんに伺いました。
捨てられる前に、できること。
デパ地下やスーパーのお惣菜コーナー。売れ残った食品に値引きシールがどんどん貼られていく光景は、閉店間際の日常茶飯事といえるでしょう。この余剰な食品たちを、捨てられる前にレスキュー(=購入)するために誕生したのが「TABETE」。2018 年4月にスタートし、現在は渋谷・恵比寿エリアを中心に飲食店300店舗が参画。今後も徐々に加盟店が増える予定で、東京から地方進出を目指す大注目のサービスです。
「TABETEはまさに“フードロス削減”というテーマから生まれました。中食(*1)・外食(*2)に特化し、残ってしまった食品をいかにして最後まで消費者に届けるか、を第一に考えています。例えば、中食は閉店までお店に商品を並べていないと、見栄えが悪くなってしまいます。だからといって、仕入れ量や生産量を急激に変更すると、既存のビジネスに影響が出てしまいます。そこで私たちは、既存のビジネスを阻害しない方法で、うまく消費者に食べてもらえるような食品のマッチングをしたいと思っています。仕組みは、単純。飲食店に今、余っている料理やこれから余りそうな料理を出品していただき、ユーザーが事前クレジット決済で購入してからお店に取りに行くサービスです」と川越さんは話します。
*1 中食…調理された食品を購入して持ち帰ったり、配達してもらって家庭内で食事すること。
*2 外食…飲食店など家庭外で食事をすること。
TABETEのユーザーになると、加盟店をお気に入り登録できます。登録したお店が料理を出品すると、プッシュ通知が届くので、最新情報を見逃すこともありません。売価は店舗側が自由に決められ、パソコンやスマートフォンで手軽に出品の登録ができるとあって加盟店の反応も上々。その7、8割が個人店だといいます。
「特にビュッフェをやってる飲食店から、助かっているという声が多いです。ビュッフェは、余るくらい多めに料理を用意しておく場合が多いです。なぜなら、最後までたくさんの料理が並んでいる方が、選べる楽しさがあり、お客様は嬉しいと感じやすいからです。消費者の心理ですよね。このこと自体は仕方がないし、救える食品であるのは変わらないので、僕たちが食べ手としっかりつなげることさえできればいいと思っています」と川越さん。
捨てられる現場を見て、気づいたこと。
このサービスは、川越さん自身の体験から誕生しました。大学在学中から飲食業界で働いていた川越さんは「食べ物を捨てる側の人間だった」と話します。仕込み時のロスや下げ場に戻ってくる食べ残し。飲食業界の当たり前をなんとかできないかと考えている時、デンマーク発の「Too Good to Go」というサービスに出会ったそうです。現行のTABETEと同様、廃棄される前の食品をユーザーが購入できる仕組みですが、大きく違うのは「低価格で出品する」ことも条件である点(ヨーロッパでは貧困対策も大きなテーマであるため)。現在、ヨーロッパ9カ国で展開される「Too Good to Go」は、2015年にSDGsが採択される前から始まった、まさにフードロス対策の草分け的存在。ユーザーは数百万人。約1万5000店の加盟店の中には、マンダリンオリエンタルなどの一流ホテルも含まれ、食の未来を担うサービスとして定着しつつあります。
個人の行動の積み重ねが未来を変える。
そして川越さんはフードロスの未来について次のように話します。
「地球規模で言うと、食料の生産量って実は担保されているんですよね。でも、世界中で貧困や飢餓が起きています。つまり、食料は先進国に偏ってるんです。でも、この現状を是正するような大それた事はひとつのサービスだけでは達成できません。それでは、どうしたらいいかと考えると、やっぱり日々の消費者の行動にかかっているんです。一人一人が消費の適正量を把握し、できる事をどんどんやっていかないと、僕たちの未来に持続可能な世界はないと思うんです」
昨今、食のサプライチェーン(消費者の手に届くまでの工程)が長くなりすぎて、生産者の顔が見えにくくなっていることを問題視していた川越さん。これでは消費者が「食」の裏側にあるストーリーを感じられなくなってしまう。「TABETE」は飲食店と食べ手(消費者)をストレートにつなぐことで、顔を見ながら受け渡しができることにも価値があります。
「ユーザーの多くは働く女性ですが、フードロスを削減したいという思いが強い方だけではありません。TABETEを通して美味しそうな料理を見つけ、ちょっとだけお得に買えて、おまけにいい店まで知ることができる。それが結果的にフードロス削減につながっていたらそれでいいと、僕たちは本気で思っています。帰りに何か1品買っていこうかな? という時の新しい選択肢。フードロスをゼロにすることは難しいですが、みんながこの問題に気づき始めることが重要なんですよね。もったいないのはやっぱりよくないよね、と「TABETE」を通して食のストーリーを身近に感じ、行動につなげる場としてサービスを使ってもらえたらいいなと思っています」と川越さんは語ってくれました。
TABETEが果たすべき、食の責務。
現在、フードロスの総量は、日本だけでも年間646万トンと言われています。先進国から発展途上国への年間の食料援助量が大体320万トンぐらいなので、その約倍の量を日本人は捨てている計算になります。また、646万トンのうちの約4割は、家庭からのフードロスという調査結果も出ています。川越さんは普段の買い物での何気ない消費行動にこそ、警鐘を鳴らしたいと話します。
「スーパーで売られている牛乳を手に取るとき、自然と奥から取りませんか? 僕は、その行動に理由があればいいと思ってるんです。例えば、“1人暮らしで飲むのに1週間かかるから、なるべく賞味期限が長い方がいい”とか。だけど、“家族で飲むから1〜2日でなくなるんだよね”という人ならば、手前から買ってもいいんじゃないのかな? と思います。賞味期限が短い牛乳がその後どうなっちゃうのか、僕たちは考えられてないんですよ。無意識で行っている消費行動や習慣こそ、“ちょっと待ってよ”と思わないといけない時期が来ています。一人一人が全体最適に近づける方法を考え、これからの世界を少しでもアップデートさせていく責務があると思っています」
全員に強要するわけじゃなく、一人ひとりの状況に合わせた行動を選ぶこと。「すべての問題に対しての特効薬はない」と川越さんは続けます。そして、私たちの消費行動によって影響が出るのは、食の未来だけではないとも話します。
「服だって、ものすごい量が捨てられて焼却処分されてるのに、着る服がない人も世の中にはいっぱいいるじゃないですか。これはSDGsで言うと、“つくる責任、つかう責任”。使う人の数が圧倒的に多いですから、本当は“つかう責任”の方が重要だと思うんです。ものを大事にしましょう、みたいな話で締めくくるのも何だか物足りない気もするのですが、やっぱりそういう事なんですよね。TABETEというサービスを通して、食だけでなく、いろんな事を結びつけて考えてもらえたらうれしいです」
小さな行動の積み重ねが未来を変えるきっかけになる。フードロスの問題解決の糸口は、意外にも身近なところにあるかもしれません。
編集後記
本文ではご紹介できませんでしたが「TABETEで食べ物を買うことで、その1食にストーリーがつく。自分が食べるもののことについて語れることはすごく大事。」という川越さんの言葉が印象的でした。今日食べるものをなにげなく選ぶのではなく、少し立ち止まって意志をもって選ぶこと。それがフードロス問題の解決につながる第一歩になるのかもしれません。
(未来定番研究所 菊田)