2018.07.16

未来のキャッシュレスな暮らし<全3回>

第1回 スウェーデンで今、起こっていること

「キャッシュレス化」や「カード社会」という言葉を最近よく耳にします。日本でも、SuicaやEdy等の電子マネーや、Apple payやLINE Payのようなモバイル決済サービスが登場し、普段の暮らしの中で現金を必要としない「キャッシュレス化」が徐々に進んでいるように感じます。

こうしたキャッシュレス社会をいち早く実現した国のひとつに、スウェーデンがあります。筆者の暮らすスウェーデンの首都ストックホルムでは、普段の暮らしで現金を持ち歩かなくても困ることはほとんどありません。日常の買い物では、まだまだ現金決済の比率が高い日本。スウェーデンのキャッシュレスな暮らしを通して、日本の未来の暮らしを考えてみました。

(撮影:Markus Karlsson Frost)

Profile

大迫美樹(Miki Osako)/コーディネーター・ライター

2007年よりスウェーデンのストックホルム在住。大学卒業後、アパレル会社や広告制作会社勤務を経て、スウェーデンへ移住。現在はスウェーデン人の夫と暮らしながら、フリーランスで雑誌や広告、TV、日本企業の仕事を中心にコーディネート全般、執筆を手がける。

インスタグラム:@mikikosmic

HP:Kokemomo Sweden 

国民の7割が現金を必要としていない?

「本当に現金を持ち歩かないの?」と、半信半疑の方もいるのではないでしょうか。実際に、私が現金を手にしたのは半年以上前だというほど、ストックホルムではカードのみで生活ができるのが現状です。

 

現在スウェーデンで、現金以外に使われている決済手段は、カード、もしくはSwish(スウィッシュ)というスマートフォン用のモバイル決済アプリです。カードと言えば、日本ではクレジットカードをイメージしますが、スウェーデンは”バンクカード”と呼ばれるデビットカードが主流。私も普段は、このバンクカードのみを持ち歩いています。

 

スウェーデン国立銀行が2018年5月に出した最新の統計によると、今年に入って最近1ヶ月の間で使用した決済方法は、約90%の人がデビットカード、そして約60%がモバイル決済アプリSwishと答えています。グラフ1を見ると、デビットカードの使用割合は2014年から変わらず高く約90%をキープ。またSwishの使用割合も、右肩上がりで増加しているのに比べて、現金の割合が大きく減少しているのがわかります。

「最近の1か月間で支払いに何を用いたか」/左から、現金、カード、スウィッシュ。

最近の買い物で現金を使用した割合を示すデータでは、最近1ヶ月間の支払いで全く現金を使用していないと答えた割合が40%、そして驚くことに70%が買い物の際に現金がなくても何も問題なく暮らせると答えており、スウェーデンのキャッシュレス化がどれほど進んでいるのかがわかります。

こんなところもキャッシュレス?

では、実際のストックホルムの街中では、どこまでキャッシュレス化が進んでいるのでしょうか。

例えば現金での支払いが一般的な屋外マーケット。ストックホルムの中心地にあるHötorgetのマーケットは、もちろん現金での支払いも可能です。しかしここ最近は現金を持ち歩かないスウェーデン人が増えたことでカードでの支払いができるようになりました。

お店の軒下には、「カード使えます」という意味の「Vi tar kort」のサインがいたるところに。現金とカードの使用の割合を店主に尋ねたところ「ほとんどの人がデビットカードです。現金を使う人は最近とても少ないですね。」とのこと。

屋外マーケットの様子。

小さなショップ等では、最近は現金よりデビットカード、もしくはSwishでの支払いが増加しています。オーナーふたりで切り盛りしているという小さなインテリアショップでは、Swishでの支払いも多いと話してくれました。

 

街中のカフェやレストラン、ショップでも、「現金NG」や「Kontantfritt(キャッシュ・フリー)」の看板や張り紙が貼られている店舗がとても多く、そのような店舗での支払いはカードのみの利用となっています。

地元の人々に愛されている小さなベーカリー&カフェでは「キャッシュフリーショップ」の看板が、店内に立てられていました。ショップスタッフの話では、この1年くらいでカードのみの支払いに切り替えたそうで、しかし現金が使えないことで特に顧客が変化することもないといいます。

写真の中の「Vi är en kontantfri butik」は、「We are a cash-free store.」という意味。

また、子ども服ショップでも入り口の自動ドアには、現金を扱わない店という意味の「Cash-free store」と書かれています。現金を扱わないのはなぜなのか、ショップスタッフに話しを伺ってみると「ほとんどの人がデビットカードを利用していることに加えて、小さなショップなため、女性一人でショップのオープンやクローズをすることがよくあります。そのため強盗などに合う可能性も高いという理由もあり、現金を扱っていません」。

子ども服ショップの入り口の様子。

スウェーデンのデパートやショッピングモール、公共のトイレは基本有料です。この公共のトイレにも、キャッシュレスの影響が及んでいるのです。街中にあるショッピングセンターのトイレは、カードで支払いが済むと鍵が開くシステムとなっています。現金を使用しない人の増加とともに、このようなカードで支払いができるトイレが増加傾向にあります。

ショッピングモールのトイレ。

ここまでキャッシュレス?!と、多くの日本人に驚かれるのが子どもへのお小遣いです。スウェーデンでは、子どもが10歳頃までは親が学校への送り迎えをし、それ以上の年齢になると子どもたちは友人や自分たちで学校へ通学するようになります。それと同時に子どもたち自身で買い物をする機会も増えるため、デビットカードを持たせる両親が多いのだそう。

 

暮らしの中で重要な公共交通機関も、もちろん現金不可。地下鉄やバスに乗るためには、乗車前に駅改札近くにあるコンビニ等でSuicaのようなICカードを購入し、カードへ入金(チャージ)してからでないと乗車ができないシステム。というのも、バスの運転手や駅改札の窓口では現金を扱っていないためです。

 

また、現金での支払いのイメージがある教会の寄付も、この20年で現金からカード、そしてSwishでの支払いへと移行しているようです。Svenska kyrkan(スウェーデン国教会)のプレスの方に、最近はどのような方法で寄付を支払う方が多いのか、お話を伺ってみました。「最近ではカードの支払いも少なくなり、Swishが大半を占めています。そのため各教会に備え付けられているカードで寄付を支払う機械も、故障をしたところは撤去をし、Swish、または現金での寄付受付のみです。ほとんどの方がSwishを利用していますね」。

スマートフォンさえあれば、Swishのアプリに教会の番号を入力するだけで、すぐに支払いが済む手軽さがいいのだろう、と話してくれました。

 

また、特殊な事例でいうと、結婚式に付きものであるご祝儀。この国にはご祝儀という習慣はないものの、プレゼントの代わりにハネムーンの旅費代を少し助けるという理由で、結婚式の際に現金を渡す人もいます。それも最近ではSwishでの支払いが増えていると聞きます。日本人からするとご祝儀をモバイル決済で済ますのは、なんとも味気ないという声も聞こえてきそうですが、新郎新婦が当日に現金の管理に気を取られなくていいことや、インターネットバンキングで誰からいくらいただいたのか、後日明細をチェックできる利点があるため、利用者も多いのかもしれません。

 

その他にも、病院での支払いももちろんカードですし、ホットドックスタンドでもカード決済は可能、友人との食事で割り勘の場合も、自分の支払う分を伝えれば、それぞれがカードで支払えるなど、日本では現金しか受け付けてくれないようなケースでもカード決済が当たり前とされており、スウェーデンがいかにキャッシュレス化が進んでいるのかがわかると思います。

日本も子どもへのお小遣いや結婚式のご祝儀をモバイル決済するような日が、そのうちくるのかもしれませんね。次回は、大半のスウェーデンの人々が利用しているモバイル決済アプリSwishについて、そしてなぜスウェーデンがここまでキャッシュレス先進国となったのか、その未来についてを専門家の意見も交えてご紹介いたします。

(次回へ続く)

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