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2018.05.21
ドローンが叶える未来の物流。<全3回>
お店に注文すると、ものの10分で空からドローンがやって来て、荷物を届けてくれる……。これ、「少し先の未来」の話ではありません。既に実証実験が始まっている、「いま」の出来事なんです。実現させたのは、楽天ドローン。いつの間にか到来していたSF的物流の背景や課題をお聞きするべく、楽天のドローン事業部ジェネラルマネージャー・向井秀明さんにお話を伺いました。
(イラスト:岡崎由佳)
向井秀明さん
楽天株式会社 新サービス開発カンパニー ドローン事業部 ジェネラルマネージャー
F.I.N.編集部
まずは、楽天が「ドローン配送サービス」事業に乗り出した経緯を教えてください。
向井さん
私たちのビジネスの中核はeコマースですので、そもそも「物流」は、ビジネスにおいて非常に重要な一部なんです。でも、人手不足や交通渋滞など、さまざまな課題が大きなボトルネックとなって、eコマースの成長をある意味阻害するような状況に陥っています。そんな状況を、革新的なテクノロジーを使って根底から変える方法はなにかないだろうかと考えたとき、ドローンという答えが浮かびあがってきたんです。検討を始めたのが2015年後半で、実際に世間にお披露目したのが2016年の4月でした。
F.I.N.編集部
ドローンを使うことで、物流が「根底から変わる」と考えた最大の理由はなんでしょうか?
向井さん
人類がまだ有効に使えていない「地上150m以下の低空域」を、有効活用できるのではないかと考えたからです。都市部であれば、道路は混雑もしますし、過疎地や離島であれば、道路が狭かったりそもそも道がなかったりしますが、現状「低空域」は、ほとんど未使用ですからね。
F.I.N.編集部
肝心のドローンは、自社開発したのでしょうか?
向井さん
自律制御システム研究所(自律研)という、産業用ドローンに特化した日本のスタートアップに投資をしたことがきっかけとなり、専用の配送用ドローンを共同開発することになりました。
ドローンにはいろいろな技術要素が必要なのですが、自律研の一番の強みは、フライトコントローラーと呼ばれる、いわゆる頭脳の部分なんです。「こういう風を受けたらこういう姿勢を取れ」とか、「こういう命令をしたらこういう飛び方をしろ」みたいな頭脳の部分を、自社で開発している日本で唯一のベンチャーが、自律研でした。海外にも優秀なドローンメーカーはありますが、フライトコントローラーの仕組みはなかなか明かしてくれません。肝心な部分をブラックボックス化しておかないことが、黎明期では特に重要だという判断もあり、自律研とタッグを組むことになったんです。
F.I.N.編集部
サービスを開発するにあたって、一番こだわったところはなんでしょうか?
向井さん
ドローン専業の会社というと、「ドローンの技術をそのまま提供」したりだとか、「飛ばせるドローンをそのまま提供」することが一般的なのですが、私たちはeコマースも展開する会社ということもあり、ドローン物流をどんな事業者さんでも使ってもらえるように、「トータルソリューション」として提供できるところまで作り込んだことが大きな特徴だと思います。
たとえば、2016年4月に千葉県のゴルフ場でおこなった検証では、ラウンド中のプレイヤーが注文したものを、クラブハウスからドローンで届けるというサービスを提供してみました。ゴルフボールやドリンクやフードなど欲しいものを専用アプリで注文し、クラブハウスの方でそれを用意し、ドローンダッシュボードと呼ばれる画面で「離陸ボタン」押すだけで決められた場所にドローンが飛んでいくという、簡単な仕組みです。
つまり、専用アプリとドローンダッシュボードを簡単に操作できるように作り込み、それを専用設計のドローンとパッケージにすることで、サービス用のソリューションとしたわけです。
F.I.N.編集部
ユーザーの反応はどうでしたか?
向井さん
ゴルフプレイヤーさんからはとても喜ばれました。なにしろ、「自分が注文したものが空から運ばれてくる」ことを誰も体験したことがないので、みなさん、スマホで写真やムービーを撮っていました。いまはとにかく、「ドローンがモノを届ける」という時代がやって来たんだということを知っていただくことが大切だと思いますので、大成功だったと思います。
次回は、離島間や都市部での実証実験などについて伺い、使い手の視点から未来の物流を探ります。
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