2019.01.17

絶滅の危機に直面!? ウナギを絶やさないために私たちができること

土用の丑の日に食す習慣のあるニホンウナギ。1970年代と比べると大幅に減少していると考えられ、2013年には絶滅危惧種にも指定されました。私たち日本人が昔から愛してやまないウナギの未来は、一体どうなるのでしょうか。うなぎの生態研究を行なっている中央大学法学部准教授の海部健三さんに伺いました。

 

撮影:米山典子

画像提供:海部健三

科学的に決められたわけではない? シラスウナギ利用上限値の謎

 

ウナギの絶滅が叫ばれる昨今。2018年の初めに、養殖ウナギに使われるシラスウナギの収穫量が前年と比べて99%減という衝撃的なニュースが流れたのも記憶に新しいところ。しかし、これにはシラスウナギが日本の沿岸部にたどり着く時期が大きく関わっているのだと言います。

(シラスウナギ)

「地域によりますがシラスウナギの主な漁期は、12〜4月。先シーズンの蓋を開けてみれば、14トンのシラスウナギが養殖場に渡っています。その前のシーズンは、19.6トン。ニュースの続報がなかったんです。減ったは減ったけど漁期の初期がものすごく不漁だっただけ。シラスウナギがやってくる時期が遅れたので、漁期に十分に獲れなかったのだろうと考えられます」

 

とは言え長い目で見ると、1970年代から2000年代までの40年間で、天然ウナギとシラスウナギの漁獲量がともに、大幅に減少。この要因として考えられるのは、“海洋環境の変化”、“獲りすぎ食べすぎ問題”、“沿岸や河川の環境の変化”の3つが挙げられると海部さん。

「シラスウナギが成育場まで流れつけるように海洋環境を人間の手で整えるのは、あまりにも壮大であり、極めて難しい。現在、人間の飼育下で卵を産ませて育てることが難しいニホンウナギは、すべて天然の資源に頼っている状態。養殖に用いられるシラスウナギも元をたどれば天然ですから。いわば再生産が可能な資源なので、今減っている状況を鑑みると獲りすぎ、食べすぎだということになります」

(ニホンウナギ)

ニホンウナギを利用する主要な国、地域である日本、中国、韓国、台湾では、2015年からシラスウナギの利用上限値を78.8トンに制定。しかし、2015 年漁期が37.8トン、2016 年漁期が40.4トンと、実際に利用されているシラスウナギの量に対してこの上限値は過剰であると、ニホンウナギの資源管理の問題を指摘します。

 

「ニホンウナギの研究・調査があまり進んでいません。この利用上限値は、科学的知見を入れずに制定した値で、消費を減らす効果はほとんどありません。ただ、絶滅の危機に直面しているニホンウナギにとって、こういった枠組みができたことはいいことだと思います。また、養殖ウナギのほか、天然ウナギにも規制が必要です。冬になると成長したウナギが卵を産みに産卵場へ出かけるので、この時期にウナギを獲らないことも重要ですね」

 

なお、人工の飼育下で卵を産み育てる、いわゆる完全養殖は、実験レベルで成功しているそう。ただ、死亡率や奇形率が高く、コストも高くつくことから、天然のものと比べてもコスパが悪いのだとか。このまま完全養殖の研究を続けても、直接的に天然のウナギを救うことにはならないとのこと。

人の暮らしのためにウナギは生きにくくなった?

(河口堰)

海で生まれて川や河口で成長するウナギは、約10年の寿命のうち、9年近くをこの川や河口といった環境の中で生きていきます。沿岸や河川の周辺は、私たち人間が暮らす環境でもあります。そのため、環境がウナギの成長に大きな影響を与えているのは言わずもがな。

 

「問題は大きく分けて2つ。ひとつは、例えば海と川のつながりの遮断するために作られた河口堰(かこうぜき)などの構造物です。海は塩水、川は真水、それが混ざったものを汽水域と言いますが、人間が真水を取るために仕切りとして河口堰を作ってしまったんです。こうして川に入ってこられなかったウナギは、成長するための場所が奪われてしまう。暮らす場所の河川に入れなければ、ウナギの数も減少してしまいます。もう1つは、河川の環境が単純化されていること。岸をコンクリートで固め、曲がりくねっていた川路をまっすぐにした。人間が暮らしやすくするための環境改変で、ウナギが住みにくくなったと考えられます」

 

必要なのは、ウナギの生息域を取り戻すこと。海と川とのつながりが目に見えにくいからこそ、海と川のつながりをはじめに改善していくことが重要なのでしょう。今、水質は少しずつ改善されつつあります。

 

ウナギの半数以上が密漁によるもの

基本的に禁止されているシラスウナギの漁。養殖用に獲るには、特別な許可が必要になります。当然、漁獲量の報告を義務付けられているけれど、日本で養殖されているウナギの半分以上が、報告されていないシラスウナギを利用しているのだと海部さんは言います。

 

「許可を受けた上で漁獲したけれど報告していないのも問題ですが、これのほかに密漁が頻繁に行われているのも業界内ではよく知られているところ。シラスウナギは6cmほどなので網ですくい取ったりと、他の漁業と比べて規模が非常に小さい。だから取り締まりが難しいんです。それに海外から輸入したシラスウナギについても、元を辿ってみると、日本に渡るときは合法だとしても、元々は密輸されたものだと言われています。」

 

流通量の半数以上が密漁によるものだと言われ、“獲りすぎ食べすぎ問題”や“沿岸や河川の環境の変化”によって減少していると考えられるウナギ。与える影響は少ないので個人が食べることを我慢する必要はないにしても、こうした社会やシステムに対して正しく理解することがウナギを絶滅から救う第一歩になるのかもしれません。

Profile

海部健三/中央大学法学部准教授

 

1973年、東京都生まれ。1998年、一橋大学社会学部卒業。社会人生活を経て2011年に東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程を修了。河川や沿岸域におけるウナギの生態研究のほか、ウナギの問題を議論する場を作り出すことにも力を入れている。

中央大学研究開発機構ウナギ保全研究ユニット長、国際自然保護連合(IUCN)種の保存委員会 ウナギ属魚類専門家グループ

 

ウナギ情報website「ウナギレポート」

http://c-faculty.chuo-u.ac.jp/~kaifu/index.html

 

編集後記)

以前、tasobiの堀田さんが教えてくれた「サスティナブルシーフード」。編集部はもちろん、様々な方からの反響が大きく、もっと日本の漁業について深く知るべきだと思い、海部さんをたずねました。

必要なのは、持続可能な流通量と消費量のバランス。消費者がただ食べる量を減らすのではなく、供給側がウナギの生息できる環境をつくり出すことがとても重要だそうです。ウナギに限らず、これからも美味しい魚が食卓に並び続けるために、私達がするべきことを今一度考えるきっかけになりました。

(未来定番研究所 佐々木)