2019.04.02
政府主導で動く、働き方改革。これまで禁じられていた副業規制が、大手企業を中心に徐々に解禁されつつあり、働き方の多様化が進んできています。いずれは、本業/副業という概念ではなく、一人ひとりが複数の仕事をすることが当たり前になるかもしれません。副業は、新しい働き方の選択肢として、日本に根付くのか。根付くために、克服すべき課題は何なのか。今回は、本業を活かしたプロ人材の副業紹介サービス「プロの副業」の小野進一さん、個人が自分の時間をチケットして販売する「タイムチケット」の山本大策さん、副業モデル支援アプリ「週末モデル」の筒井まことさんに、お話を伺いました。
多様化する副業支援サービス
F.I.N.編集部
まず、みなさんが各サービスを始めたいきさつを教えてください。
山本さん
私は、空いた個人の時間を30分単位で売り買いできる「TimeTicket」を運営しています。その前に、コーヒーを飲む時間を共に過ごしたい人同士をマッチングするサービスで起業したんですが、その時に、面白い人たちのスキルやノウハウが世の中でシェアされていないんじゃないかと感じたのがきっかけです。
筒井さん
私は、副業モデルアプリ「週末モデル」を運営しています。モデルというのは、プロダクションやモデル事務所に所属しているケースがほとんどですが、近年、読者モデルが台頭して、商品訴求に直結するということでニーズが高まっています。では、読者モデルをしている人は、芸能人になるための足掛かりでやっているのか、単なるアルバイトなのか、目的が人によってさまざま。定義するのが難しいんですね。そこで、例えば本業は介護福祉士やOLで、モデルは「副業」という形でできる「週末モデル」を始めました。本業を活かせるモデル活動、逆にモデル活動を本業に活かし、相乗効果が生まれるようなサービスを目指しています。
小野さん
私は、人材紹介の仕事を長くやってきたんですが、人材市場というのは、リーマンショックでガクッと落ちて以降、年10%くらいずつ右肩上がりで、売り手市場が続いています。そうした現状だと、なかなか人材紹介が上手くいかない。そこで、副業が解禁された企業で働くプロの力をシェアしてもらえば、人手不足の企業のニーズを埋められるのではないかと考え、副業に特化した人材紹介サービス「プロの副業」を準備しました。“5人で1人力”みたいな考え方です。
山本さん
小野さんに伺いたいことがあります。プロ人材に特化した副業サービスを行う会社が次々に誕生している状況をどう考えてらっしゃいますか?
小野さん
私は、副業サービスを手掛ける会社がどんどん増えたらいいと思っています。というのも、働く人に「空いてる時間で副業したいか」と聞いたら、ほとんどの人が「やりたい」と答えると思うんですよ。新卒就職や転職よりも、潜在的な市場規模は格段に大きいはずなのに、副業希望者は、求人の探し方がわからない。こうした現状を解消するには、副業紹介会社というのは、人材紹介会社や新卒斡旋会社の10倍はあってもいいと感じています。
F.I.N.編集部
どんな方がみなさんのサービスを利用して副業していますか。
筒井さん
サービス利用者はだいたい、まったくの未経験者、「有名になりたい」という野心のある方、「昔やってて時間ができたのでまた」という経験者の3つにカテゴライズできます。介護福祉士や看護師が、「業界のイメージを変えたい」とモデルとして活動するケースもあります。
小野さん
本業があって、時間に余裕があるプロ人材です。優秀な人ほど、企業から求められることをこなす能力が高く、働く時間が余るんです。その時間、その企業で働いても、給与がボーナスが増えるわけでもない。ならば、余った時間で副業をしようという発想。本業とはちょっと違う内容を副業として行い、スキルアップしたい人も結構多いですね。マネージメントの立場の人が、やっぱり現場の仕事がしたくて副業するパターンもあります。
山本さん
うちは、25~40歳くらいまでの都内在住者がほとんど。男女比率では、約6:4で男性がやや多くて、本業を持っている方が9割です。これは弊社の課題ですが、50歳以上になると、極端に利用率が下がります。ネットサービスに抵抗感がある方が多く、
Facebookアカウントを持ってないと利用できないシステム上、登録の段階で離脱されてしまいます。
副業でも求められるプロ意識とアイデア
F.I.N.編集部
副業にまつわる現状での課題は?
筒井さん
モデルマッチングは、ひとつ間違えると出会い系として使われてしまう危険をはらんでいるので、非常に慎重にならないといけません。トラブルを防ぐために、C to Cではなく、企業として登録してもらい、B to Cでモデルさんをマッチングさせています。
小野さん
オフィスに行かずフルリモートでできる副業のニーズが高いのですが、そのニーズに応える求人が圧倒的に少ないことですね。セキュリティの問題で、個人PCからはアクセスできないので、企業は、週何回オフィスに来られるかを採用で重視します。人を採りたい企業、副業したい個人のニーズは高いのに、そもそも、日本社会の仕組みが、副業に対応できていないんです。
F.I.N.編集部
副業する側としては、どんな意識で副業に臨むべきでしょうか。どうしても、副業というと本業よりも気軽な感覚があります。
山本さん
「TimeTicket」では、チケットを販売する側=副業する側が、自分の名前を出して時間を売り、買い手からはレビューがつきます。社名ではなく、あなたの名前で勝負し、評価されるのだから、本気で取り組んでいただく必要があることを伝えるホスト(売り手)教育を重視しています。
筒井さん
まったく同感ですね。副業であっても仕事である以上、モデルにも知識は不可欠なので、「週末モデル」でも教育に力を入れています。
小野さん
副業でも、本業と同じく、プロとしてのクオリティが求められています。弊社は三か月契約が基本で、企業から継続を求められる人とそうでない人の違いは、たとえば、3か月で自社のSNSフォロワーを1000人増やすだとか、企業が設定する数的目標に対して結果を出せるかどうか。これって、本業であろうと副業であろうと、まったく変わらないんですが、まだ副業では、そこまでモチベーションが高い人が少ないと感じます。
山本さん
「TimeTicket」では、アイデア次第で究極、誰でも副業できるんです。ただ、自分の持っている何をどうすれば売れるのか、どんなニーズがあるのか考える努力は必要です。ちなみに、意外に売れるチケットは、「マッチング用のプロフィール写真を撮ります」というもの。異性のあなたが“いいね”を押したくなるような、プロっぽくない自然な写真へのニーズが高いんです。それと、恋愛相談。知り合いでないからこそ、相談者もアドバイスする側も本音で話せるんだと思います。学生としての意見を聞きたいというニーズもありますし、必ずしも特別なスキルはいりません。
副業という選択肢が当たり前の未来へ
F.I.N.編集部
最後に、副業の未来がどうなるのか、みなさんの予測をお聞かせください。
山本さん
ひとつの会社に属して、定年まで勤め上げるという従来の働くモデルが、だいぶ崩れてきているとはいえ、まだ、その認識で止まっている人も多いのが現状です。ですが、副業であったり、フリーランスであったり、働き方の選択肢は増え、定着していくと思いますね。本業と副業という分け方も変わりそうです。今は、拘束時間が長い仕事=本業ですけど、拘束時間が短くても、モチベーション高く働ける方が本業になっていくのでは。
小野さん
副業市場は、5年後には、今の10倍以上に大きくなっていると考えています。
副業として働いてもらうことが当たり前になっていく中で、本業として働く社員としての採用に固執し、副業者にオープンでない企業は、ますます人材の確保が難しくなるでしょうね。
筒井さん
おふたりのおっしゃる通り、人材不足を背景に、副業という働き方は広がっていき、先行きは非常に明るいと前向きに予測しています。これは、希望であり、弊社が目指す先ですが、お金を稼なきゃいけないから副業をするというネガティブな捉え方ではなく、人生100年時代と言われる中、長い人生を楽しむ一環としての副業が広まっていく未来であるといいですね。
小野さん
私も、副業が当たり前という価値観の社会を作っていきたい。年々、新卒として就活する人達の間では、大手企業や公務員を目指す安定志向が強まっているのも事実。「大手企業に入社できれば一生安泰」という考えは危なくて、プロとして他の企業でも通用するスキルを磨いていかないといけないんだという意識が、若い人から生まれる社会にしていきたいんです。
山本さん
僕は個人的に、どんなことにも対応できるように、Aプラン、Bプラン、そしてZプランを持つように意識して活動しているつもりです。日本社会も、本業、副業、さらには本業とも副業ともまったく違う仕事など、さまざまなパターンを持ちながら生活できる社会になっていくといいですね。
小野進一
株式会社ホールハート代表取締役CEO。株式会社クレディセゾン、株式会社帝国バンクを経て、株式会社宣伝会議に入社。宣伝会議のグループ会社であるマスメディアン代表取締役として、広告・Web・マスコミ業界の人材紹介業務を手掛ける。2009年、株式会社ホールハートを設立。新卒、転職、副業とさまざまな形で人材紹介を続けているコンサルタントのプロ。2018年2月にプロ人材の為の副業紹介サービス「プロの副業」をリリース。
筒井まこと
MONOKROM代表取締役社長。1979年4月17日(39歳)広島出身。第一次ITバブルの時代にIT企業に入社、営業での成果を発揮。以後、いろいろなビジネスの立ち上げを経験。制作力の重要性を感じ、制作を中心にクリエイターのマネジメントや事業を生み出す「株式会社MONOKROM」を立ち上げ、2017年12月に副業モデルアプリ「週末モデル」をリリース。
山本大策
株式会社グローバルウェイ グローバルウェイラボ室長。みずほ情報総研株式会社、株式会社リクルートメディアコミュニケーションズなどを経て、株式会社レレレを設立。「CoffeeMeeting」や「TimeTicket」などを開発、運営。2016年、全事業を株式会社グローバルウェイに譲渡し、現在は、同社の新規事業開発部門であるグローバルウェイラボ室長として、新規プロダクトの開発・運営を引っ張る。
働き方改革がどんどん推進される昨今、同時に話題になってきている「副業」。
アメリカではもう少しで、企業に務める会社員と、プロのスキルを存分に活かすことができ複数の仕事をもつフリーランスの割合が同等になろうとしています。日本ではまだ本格化はこれから、というところで企業側の情報管理などのインフラの整備や、副業といって働く側の本当のプロとしてのスキルアップのしくみや意識、依頼側から求められるレベルとの合致などの課題はあるものの、人生100年時代を迎えるこの先、自分らしさを大事にしながらスキルを活かし、必要とする人とシェアし、色々なパターンの働き方が選べる未来は近いと実感しました。(未来定番研究所 津田)