2022.10.19

日本のしきたり新・定番。<全10回>

第7回| 未来の葬儀は、故人と向き合う時間に。葬儀コンシェルジュ・馬場偲さん。

日本には、古くから受け継がれてきた「しきたり」が多く存在します。F.I.N.では、そうした伝統を未来に繋ぐべき文化と捉え、各界で活躍している方々にお話を伺いながら、未来のしきたりの文化の在り方を探っていきます。

 

第7回目は、人が生きるうえで避けては通れない「葬儀・お悔やみ」文化について掘り下げます。親族や友人など、身近な方が亡くなったとき、私たちがすべきこととは。これからの「お別れ」のあり方とは。「自宅葬」を展開する〈鎌倉自宅葬儀社〉で葬儀コンシェルジュを務める馬場偲さんに話を聞きました(馬場さんには、2019年にもF.I.N.にご登場いただいています)

 

(文:大芦実穂/イラスト:フジモト)

生きていれば、親族や身近な方が亡くなる場面に出会います。では、そんなとき私たちは何をすればいいのでしょうか?

 

もし親族などの近しい方が亡くなったら、息を引き取った先の病院や施設の方に死亡診断をしてもらい、お葬式の準備に取り掛かります。自宅や施設などご遺体の安置場所を決め、そこから葬儀屋さんと一緒にお葬式の日程調整や内容、見積もりの話し合いをするのが一般的です。

 

葬儀屋さんに頼むと、死亡が確認されてから、だいたい3日間で火葬まで終了します。亡くなった初日に納棺、2日目に通夜、3日目に告別式と火葬というのが大まかな流れです。

 

僕も自分の祖父が亡くなった時に経験したのですが、一般的な葬儀はあまりにもあっという間で自分の感情を処理しきれなかったんです。そこで、故人や遺族がきちんと死と向き合えるような葬儀を提案したいと、コンテンツクリエイター集団の〈面白法人カヤック〉と一緒に、自宅葬儀を行う会社をつくることになりました。

 

僕らが執り行う自宅葬では、故人との時間を大切にするので、最初の1日は「何もしない」ことを勧めています。スタンダードなプランだと、あえて1週間くらいかけて、ゆっくりと葬儀を行います。そのなかで、故人の趣味や好き嫌い、印象に残っている言葉などをヒアリングして、遺族の方に向き合う時間をつくってもらっています。アルバムや手帳を見ることも、その方を知るうえでの大きなヒントになります。実は亡くなってから気がつくことや知ることって多いんですよ。

 

一方、友人などの第三者が亡くなった場合、まずは親族の方にLINEなどのテキストツールでお悔やみのご連絡をします。電話をかけるのはあまりよく思われません。親族は各所に電話をかけたりと忙しいので、回線を塞がないよう配慮しましょう。また、最近はコロナ禍ということもありますし、まずはメッセージで直接弔問に伺ってもいいか聞いてみたほうが安心です。

 

親族との連絡を取る係として、友人代表を立てることもあります。窓口が一本化されたほうが、親族への負担も減ります。

 

通夜や葬式の際には喪服を着ますが、自宅安置に伺う時は私服でも構いません。派手な服や華美な装飾でなければ、基本的にはどんな服装でもOKです。

 

最近では、コロナ禍ということもあり、葬儀の規模が縮小。多くのところで家族葬が主流になってきました。ただ、故人と仲の良かった友人などは、なんとなく寂しい気持ちになりますよね。そのような理由もあり、ホテルや料理屋さんで、一般の方向けに行う「お別れ会」も増えてきました。それから、僕らは、火葬の前日までにご遺体が安置されている自宅へ出向くこともおすすめしています。告別式に出ても、お焼香して帰るだけになって、遺族の方とゆっくり話す時間がありませんからね。

 

これまで15年以上、葬儀業界で働いてきて、こうだったらもっとよくなるんじゃないか、ということについて考えてみました。

葬儀屋がエンディングノート作成をサポート。

葬儀屋は、ほとんどの場合で、亡くなられたあとから親族の方に話を聞いて、故人の人となりを知っていくわけですが、故人の交友関係などは家族でもわからないことが多い。すると、葬儀に呼びたかった人は誰なのか、もし呼びたい人がわかっても、その人の連絡先はどこにあるか、たどり着くまでに時間がかかります。できれば亡くなる前から葬儀屋を見つけてもらって、僕らもエンディングノート作成のサポートができたら理想的です。葬儀屋のウェブサイト上に、エンディングノートのプラットフォームがあったら便利だなと思います。

医療従事者や終末介護をされていた方のケア。

話を聞いていると、在宅医療などを担当されていた医療従事者もロスを感じているということがわかってきました。特に在宅医療に関わられている方は、こころざしが強い方が多い。担当していた患者さんが急に亡くなると、突然つながりが失われてしまう。でも、親族や友人ではないので式に出てもいいんだろうか……と悩まれる方も多いそうなんです。なので、最近では、医療従事者の方とお話しする時間をつくりませんか?と遺族の方に提案しています。

葬儀の時間を、

平均3日間から7日間へ。

よく、1週間もご遺体を置いておいて、大丈夫なんですか?と質問を受けますが、それは葬儀屋の腕の見せどころ。ドライアイスなどでしっかりケアすれば問題ありません。日常生活のなかで故人を送る。悲しみを癒すには、ある程度の時間が必要です。それに、いま都市部では、どこの火葬場もとても混んでいて、待機日数が長期化する問題が起きています。それはやはり 故人の死後3日で火葬を行なうのが一般的だから。亡くなられてからもある程度時間にゆとりを持たせることで、こういった問題も解決できるのでは、と思っています。

 

意外だと思われるかもしれませんが、葬儀も「縁」なんです。仲違いして数年連絡を取っていなかった家族が、またそこから関係をスタートさせたり、そこにいらっしゃった方たちの中から、新たな縁が生まれる。葬儀はお別ればかりの悲しい場所ではありません。

 

葬儀=故人と向き合う大事な時間。これから先時代や様式が変わっても、「故人を偲ぶ」という本質に変わりはないのではないでしょうか。

Profile

馬場偲

鎌倉自宅葬儀社の葬儀コンシェルジュ。「多死社会」による終末施設や従事者不足の深刻な課題に向け、「在宅医療→在宅の看取り→自宅葬」をテーマに、医療業界をはじめとしたさまざまな業界の人々と連携をしながら活動中。

https://kamakura-jitakusou.com

【編集後記】

先日、祖母が亡くなりました。上述のとおり火葬はその3日後に行われ、あっという間に壺の中に収まってしまいました。本当にあっという間でした。馬場さんのおっしゃるとおり、現代の葬儀のスタイルでは、故人に向き合ってその人に想いを馳せる時間をとるのは、なかなか難しいように思います。しかし、親族や親しい人の死と向き合う時間をゆっくり持つ、そしていざ自身が亡くなったときもそうしてもらえたらと想像すると、なにか温かい気持ちが湧いてきます。誰もが迎える別れの際に、この選択肢も当たり前になる世の中になってほしいと改めて感じました。

(未来定番研究所 中島)